春風と共に、Awichの新たな幕開け
「愛は、最上級の理解」。そう語る、情熱的で果敢なリリックを届けるラッパー、Awich。
そんな彼女が春風に乗り、NYLON JAPANに堂々初登場。
時々頬を打った強い風は、彼女の内に秘められたどんな逆境も吹き飛ばす情熱を表していたのかもしれない。
2020 年もさらなる飛躍が期待され、私達に熱い情熱と勇気を届けてくれる
Awichのこれまでの音楽人生と、愛について紐解く。
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ラッパー、Awich誕生
—音楽を始めたキッカケを教えてください。
小学校5年生の時から詩を書き溜めていたんですよ。夜眠れなくてザワザワする気持ちとか、人のことを想ってきゅんってする気持ちとか、季節の変わり目になんかゾワゾワするとか、そういうのを一晩中考えては眠らずに詩に起こしていました。最初はポエムで音がなかったから、これを歌にすることにしたのがキッカケですね。それで最初にラップを始めたのは14 歳。最初に始めた時から、「私ラッパーです」って言ってました(笑)。結構自分でも歌詞とか書いてたし、ラップの練習も始めてたから、沖縄のHIP HOPプロダクションやってる人達のところいって「ラップやってるんですけど」って言ったら「やってみ?」って言われてやったら、(当時制作していたアルバムの)「イントロにはいっていいよ」ってすぐ言われました。その曲は沖縄のHIP HOPアーティストのコラボアルバム『オリオンビート』のなかの「ジャマルヤン」っていう曲でイントロに1分半ほど入りました。まだ私の声がめっちゃ子供で(笑)。それが自分のレコーディングが世間に渡った初めての曲ですね。その時から、名義はAwichでした。
—Awichという名前の由来を教えてください。
本名は亜希子っていう漢字を書くんですけど、本名の漢字を直訳して「Asia」「Wish」「Child」をギュっとしたのがAwich。
—歌詞を書き溜めていた、小さな頃に憧れていた人はいますか?
小学生の時は、Coccoさんですね。歌詞とか人格に影響は与えられてたと思います。中学3年生以降は、シンガーだとLauryn HillとかErykah Baduとか、Sadeとかに憧れてた。今は活動してないけど、Sadeは今でもやっぱり憧れてるかな。
—では、今所属しているクルーYENTOWNに入った経緯は?
今所属しているYENTOWN(@yentowntokyo)に入ったのは2017年。最初は、kZm(@kzm9393)と出会って、「歌やってるから一緒になんかやりたい」って言ったら最初は「誰なんだよ、お前」みたいな感じの態度だったんですけど、「crime」って曲を聴かせて、そうしたらめっちゃkZmがぶち上がって、その場でChaki Zulu(YENTOWNのプロデューサー)さんを呼んだんですよ。YESBØWY(@yesbowy)の豪邸のホームパーティで(笑)。そこで、「今すぐやりましょう」ってなりました。あの時に、kZmがかっこいいと思ってなかったり、Chakiさんがこんなに大事にしてくれてなかったら今の私はいないです。
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Awichの、いま
—歌詞は実体験から生まれているものでしょうか?
実体験と想像をMIXして作っているかも。実体験から引き出しをいっぱい開けて作るっていうことももちろんあるけど、今こういう状況じゃないけど書くってことももちろんあるし。その状況じゃなかったとしても想像して失恋のことを書いたりもします。
ー今年リリースしたアルバム『孔雀』の聴きどころを教えてください。
前作 のアルバム『8』は、自分の今までの人生をそのまま表したアルバム。最終的に、自分が今大事に思っているのは感謝なので、そこにいきつくまでのストーリーを描いたのが、今回の『孔雀』です。毒々しい感じから入って、愛とか感謝とかに気づいていく過程を描いたんですよ。だから、酸いも甘いも自分が体験してきたこと、そこで見てきたものを描写してます。
—なかでもNYLON読者にオススメの曲はありますか?
『POISON』。女の子が歌ってるのとか聴いたら超アガる♡ Nene(@iamrealnene)と私2人でやってる曲なので、2人組の女の子でめっちゃ大合唱とかしてる動画とか私に送られてきたりタグ付けされたりすると「それ!」って思ってうれしくなります。
—ライヴ中のパフォーマンスで心がけていることは?
繋がりですね、お客さんとの。繋がらないと意味ないと思ってるから、ちゃんと目を見て歌うし、お話もするし。英語で“intimacy”(インティマシー)っていうんですけど、日本語で言ったら「密接な関係」ですね。インティマシーがほしいんですよね、オーディエンスと。そのためにライヴしているようなものです。
—逆にオーディエンスがライヴ中に心掛けたほうがいいことはありますか?
絶対音楽を聞いてきてほしいな。客席で歌っているの見ると、マジでブチ上がる! 歌ってる子とかは完全ひいきしますね(笑)。歌いたい子は前に来てほしいですね、どんどん。
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最上級の愛と、「相対性」について。
—突然ですが、愛とはなんだと思いますか?
ひたすら相手の幸せを願うことです。「幸せ」って自分のなかにあるもの。だからそれに気付ける「手助け」をひたすらするだけ。エゴを捨てて、ひたすら。自分のことは、自分でしか満たせない。本当はみんなそうだと思う。恋愛で満たされようとするのは幻。そこで満たされようとすると、相手が自分のいないところで楽しんでいることとか、自分なしで満たされることを拒んじゃうじゃん? 「なんで私はあなたなしでは満たされてないのに、あなたは他の人と楽しそうにしてるの!」って怒る人多い。それって無意味だと私は思う。自分で本当に自分のやりたいことを分かってて、自分の満たし方を知っている。そうしたら誰かに満たしてもらうという幻想を追わなくていいから、完全なギブに徹することができると思う。相手に見返りを求めずに、ただ愛をあげたいと思うこと。
—嫉妬してしまう気持ちはどうしていますか?
例えば、出会ったばかりの時とか特に嫉妬を感じる時はあるじゃないですか。その気持ちめっちゃ嫌なのも分かるし、「もっと安定して、もっとリラックスしてこの人と愛し合えたらいいのにな」と思うはずなんですよ、その時は。でも、いざ安定したら「あのジェラッてた時の気持ちはどこ行ったんだろう? あんなにこの人のこと好きだったのに!」って思うじゃん? その気持ちをすぐ交換するようにしてる。全部が馴れ合いみたいな状態になった時に、昔のことを思い出して、昔の自分が欲しかった気持ちはこれなんだろうなと思って、その時の気持ちにすぐアクセスして、今の感情を楽しむ。それを、いったりきたりする。
—その気持ちのコントロール方法は、恋愛だけじゃなくても通ずるものがありますね。
そう、自分の気持ちをコントロールできるようになったら、全ての体験が貴重になる。例えば私だったら、明後日超大きなステージに出なきゃいけなくなった。「まだこんなところでできないよ。新しい曲もまだ全然覚えてないよ! もう逃げ出したい」って思った時に、そういう機会さえも与えられていない人とか、大きいステージに立ちたくてたまらなかった昔の自分とかを思い出すの。そうすると、「めっちゃ貴重じゃん!絶対やってやる!」ってなるから。さっき言ったことは、この世にある全てのことに通ずると思ってて、逆転の発想で考えれば全ての体験が貴重になる。今自分は、昔の自分だけじゃなくて、誰かがなりたい人間になってるんだろうなって思うようにしたり。例えば私も、「休みたい。何もしてない暇人が羨ましい」って思う時もある。だから、今ニートの人はその体験も、羨ましがられるほどめっちゃ貴重なんだよ。でも、その体験を貴重と思ってないから楽しめてないだけ。「私ってほかの人に比べてこんなに休めてるんだ」って思れば幸せなのに。ずっと幸せな人って何が幸せか見えてないんですよね。相対的に見るものがないと、その全体像に対して理解ができない。2つの体験があるからこそ、これに比べたらこれは幸せなんだって思える。その相対性を手玉にとって、コントロールし続けられるようになれば、全てが楽しめる! 本来の意味は違うけれど、私はこれを勝手に“相対性理論”って呼んでます(笑)。
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—では、愛が溢れる世の中にするためには?
愛が相手の幸せを願うことなら、そのため最初のステップは相手を心から理解しようとすること。人間って相手を理解をする前にジャッジして評価したり、相手ではなく自分のことを見て欲しいとか、自分のことを話したいっていう欲で溢れてる生き物だと思うんだよね。エゴのせいで。エゴは人間に課せられた最大のテストだと思う。それを乗り越えることができて、自分の感情押し付けることなく、「どうして相手はそういうことを言ってるんだろう?」って思いやることが出来れば無駄な争いにはならないし、そこで同意できなかったとしても理解する。なんとなくでもいい。「理解はできる」って思うこと。
ー人生で大切にしていることを3つ挙げるとしたら何ですか?
感謝と、愛と、理解。でも愛と理解は同じだと思ってる。理解することが最上級の愛だと思うから。愛するっていうのは、相手を無条件に理解することだと思う。例えば子供に対してって無条件じゃないですか。何かをしてしまったとしても、受け入れるしかないし、それで嫌いになることもない。無条件に理解してあげる。私は、子供が生まれた時に「何の恐れもなく、私のことを愛しているんだ」って初めて思ったんですよ。私はそれまで、人のことを恐れを持って愛してきたから。嫌われるかもとか、愛しても愛し返されないかもという恐れ。今、そういう人はいっぱいいると思います。告白したいけど、フラれたら嫌だなとか。でも、「無条件に愛するって決めたら、そんなん関係なくない?」って思いますね。その人の幸せのなかに私がいるなら一緒にいればいい。そうじゃないなら、何がその人の幸せなのかを考えて、それが別の子と一緒にいることだとしても、全力でサポートする。「私が好きな人の好きになった人なら絶対いいやつに決まってんじゃん」って。そういう愛し方をしていると「別れ」っていうものがなくなる。それで、おばあちゃんになった時に好きな人とか、好きな人の好きな人とか、子供達とかもみーんなで一緒にいられたら超楽しいですね。ブレンドファミリーじゃないけど、究極みんなが愛という軸でできた繋がりがあって、それに囲まれて死ねたらもう最高。その人達全員が幸せそうな顔を見ながらありがとうと言って死にたいですね(笑)。
—NYLON読者にメッセージをお願いします!
自分が良いと思って体験していることも、嫌だなと思って体験していることも、全てがあなたのストーリーになるし、全てが貴重な体験だから楽しんでください! それが分かったら何も怖くない。なんでも来いって思えます。「なんでこんな気持ちにならなきゃいけないの? どうしてこんな体験させられなきゃいけないの?」と思うことも、全てがあなたの糧になってるから。それが分かったら今は「なにも怖くない、なんでも来い!」って思えます。「こんなキツイ状況経験できてラッキー! 誰も経験したことないわ!」って。なにか辛いことがあっても、「これも自分が有名になった時には、自叙伝に載せてやる! 良かったね、こんなキツイ体験できて」って自分に言ってあげてください♡
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AWICH/エイウィッチ
1986年、沖縄県那覇市生まれ。日本語・英語・ウチナーグチ(沖縄語)を自在に組み合わせた歌詞と、
奥深い歌声で神秘的な世界観を表現する唯一無二の日本人ラッパー。
2017年日本のHIPHIOPクルーYENTOWNに加入後、アルバム『8』をリリースし圧倒的な支持を集め話題に。
@awich098
INFO.
『孔雀』BPMT-1018 ¥2,500 + tax
STAFF
MODEL: AWICH
PHOTOGRAPHY: KODAI KOBAYASHI
STYLING: MASATAKA HATTORI
HAIR&MAKEUP: RIE SHIRAISHI
EDIT: SAYURI SEKINE
INTERVIEW: MAYA MIYASAKA
DESIGN: SHOKO FUJIMOTO
CORDING: JUN OKUZAWA