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歴史を受けて未来へと進む
高良健吾の目が捉えるもの

演じることの苦悩を越えて、高良健吾は今、ひとりの大人の男として大きな使命を帯びている。
主演ドラマ『モトカレマニア』が象徴するように、役柄の幅は広がり続け、より深い洞察を持ち、俳優としての円熟を感じさせる。
アイデンティティを拡張し続ける先に待っていたのは、あらゆるボーダーを超える、新しい自由と使命だった。

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ー高良さん主演のドラマ『モトカレマニア』は、その名の通り過去の恋愛をモチーフにした物語です。まず見所を教えてください。

正直に言ってしまうと、他人の元カレ・元カノ事情って、どうでもいいじゃないですか。無関係な人の恋愛に興味を持つことって、なかなかない。だけど、原作マンガはとにかく面白いんです。過去の恋愛にとらわれながらも、必死に生きている主人公に共感するポイントがあるのかな、と。それが原作の第一印象で、ドラマの脚本にもそういう魅力が詰まっていると思います。

ー高良さんの役どころは、どんな存在なのでしょう?

天然というか、人がいいというか、優しいというか……その優しさがちょっと変な方向を向いちゃうんですよね。自分がされて嫌なことはしないし、他人を傷つけたり惑わすつもりはない。ただ自分がされたらうれしいことをしているだけなんだけど、それが結果的に人を惑わせてしまう。そういう人物です。どちらかというと「受け」の役割という感じですね。

ー高良さん自身は、過去の恋愛を引きずるタイプですか?

僕は引きずらないですね。でも、過去の恋愛を忘れる必要はないと思います。自分の歴史だから。引きずって前に進めないのは苦しいかもしれないけど、過去の恋愛を忘れなくちゃいけない、とは考えないんです。

ー人を思う気持ちは、恋愛関係が終わった瞬間、突然なくなるわけではないですもんね。

そうなんですよね。その恋愛のおかげでわかったことや知ったことが、たくさんあるわけじゃないですか。だから僕は、積極的に忘れようとは考えないんです。それは、恋愛だけじゃなく、いろいろなことについて当てはまるかもしれません。

ー経験した出来事が自分のなかにどんどん蓄積して、大切なものが増えていく感覚ですか?

増えていく感覚です。ただ、逆に言えば、思い出や記憶を自分の都合のいいように変えているということかもしれません。そういう側面は誰にでもあることですよね。このドラマの主人公のユリカは、ある意味で過去を自分の都合のいいように扱っていて、そこには共感できるな、と思いました。

ーSNS登場以降の恋愛のあり方って、大きく変わったと思います。この時代の恋愛について、高良さんはどのように捉えていますか?

良い、悪いは置いておいて、まず便利だなと感じますね。携帯がなかった頃の豊かさは、たしかにあると思うんです。恋愛で言えば、待つときの切なさ。簡単に連絡が取れないからこそ、相手を思う時間。そういう感情が今はきっと失われていて、その代わり、昔はなかった今の感情がある。例えば、SNSで元恋人を調べてしまうこととか、簡単に人と繋がって恋愛に発展していくとか……そういうことですよね。携帯ができてからラブストーリーが難しくなったっていう話をよく聞くんですけれど、それは間違いなくそうだと思います。ただ、ネガティブなだけではない。なので、「便利」という言葉がちょうどよくて、変化してゆく人の感情や恋愛についてちゃんと理解していきたいとは思っていますね。

ーそういう意味で、このドラマは、SNSありきの恋愛を描いて記録する作品になるのかな、と思います。

映画やドラマ、その他いろんな表現は、本来あり得ないことを描くことができます。なかでもラブコメは誰も否定しないし、感情の持っていき方が現実とは違う。作り手も受け手もリアルを追求しているわけじゃないから、「そんなのあり得ないでしょ」という指摘ではなくて、あり得ないからこその面白さを表現できる、というか。

ー悲劇的な状況を喜劇として描くということですよね。それは物語の大きな使命であり、人間の強さなのかもしれません。

僕もそう思っています。笑えて、応援したくなって、誰も傷つけない。悲劇も含まれているけれど、俯瞰して見たらすべては喜劇だってよく言うじゃないですか。近寄って見たら悲劇かもしれないけど。そういう感覚はありますね。

ー年を重ねるほど、様々な局面で喜劇的な感覚を持つようになる気がするんです。深刻に受け止めすぎない技術を身に付けるというか。高良さんは今年32歳ですが、そういった感覚の変化はありますか?

少しずつ、変わってきています。根は真面目なほうなので、やっぱり真面目に、真剣に捉えちゃうんですけど、楽しめていない時もあるというか、「もっと楽しんでいいじゃん」って。例えば、過去に自分が不安に思って想像していたことは、ほとんど現実になっていないんです。思い返してみると、ネガティブなことは起きていない。気を緩めるわけではないし、悩む時間も必要かもしれないけど、人生は1回しかないので、楽しんだほうがいいなとも思うんです。悲劇も喜劇も、どっちだって選べるし、自分次第なんですよね。演じていてそれがわかるんですよ。似たような境遇の役を演じていても、苦しいほうに向かう場合もあるし、逆にその境遇を面白がる場合もある。僕自身は、昔よりも、面白がるほうを選べるようになったと思います。

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ー高良さんが考える大人の男の条件って、そういった喜劇的に楽しいほうに持っていける人というイメージですか?

かっこいいと思う人達は、何でも楽しんでいますね。そして、常に本音。普通だったら落ち込むところを、「なんとかなる」って感じで楽しんでいるし、ずっと勉強している人も面白い。人生は1回しかないって、みんなわかっているんでしょうね。そういう人達は楽しみ方が上手だと思います。

ー年齢を重ねることで身に付く考え方なのかもしれませんね。

僕、年齢でいろんなことが決まると思っているんですよ。20代の頃って悩みたいし、勢いもあるし、逆にブレーキやストッパーがない。だからいろいろやりすぎて、いきすぎちゃう。30代になると、必要なものと、そうでないものがわかってくる。大切にしたいものを丁寧にやっていくなかで、楽しもうという考えが生まれるんですよね。年齢なんじゃないかなと僕自身は思っています。

ーこれから5年、10年経って、なりたい大人のイメージはありますか?

なりたいというわけではないのですが、楽しんで生きている先輩として思い浮かぶのは、井浦新さんですね。自分が20歳の頃からの付き合いで、よく遊んでくれるんですけれど、新さんの楽しみ方はすごいです。DJ、ファッション、バンド、90年代の裏原宿カルチャーをよく知っている人なんですけど、昔から自然とか歴史とか様々な方面もよく知っている。毎回いろんな話をしてくれたり「健吾君、面白い本見つけた!」と貸してくれたりするんですよ。

ー例えばどんな本ですか?

縄文時代の土偶の写真集とか、インディアンの歴史の本とか、視点が独特なんです。例えば「縄文時代って、ある意味いちばん平和な時代で、争いなく何万年続いたんだろう? 自分たちの生活の原点は、そこにあるのかもしれない」みたいなことを話してくれて。

ー歴史を紐解くと、今目の前にある疑問が解けたりしますよね。一緒にキャンプにも行かれたりしますか?

キャンプは行ったかな……?「健吾君、秘湯に行こう」と言われて、1時間半ぐらいかけて、脱衣場がない温泉に行ったり、「巨石信仰って知っている?」と大きい石を登ったり……。それもだいぶ前の話ですけれど、それだけ幅広くいろいろなことを受け取って楽しむ姿勢は憧れです。僕もそういう風に、いろいろなものを楽しみながら、人に影響を与えるということができたらいいのかもしれません。

ー巨石信仰、面白そうですね。大人になって想像力が増すと、いろいろなことに思いを巡らせて楽しむことができるようになるのかなと。

裏側が見えるようになるんですよね。東京はいろいろな刺激があって楽しいし、好きですけど、地方の一見何もない所で歴史を感じることができるようになったり。熊本城の石垣を見て、そこで起きたことを想像したり。それは大人になった証なんじゃないかな。想像力って、本当に大事だと思います。

ー高良さん自身は、どんな時に想像力を発揮しますか?

それがまさしく仕事になっていますね。ありとあらゆることが、想像するということを起点にはじまります。台本に書いてある言葉のなかに自分が入っていくというか……それも想像力がないとできないことですね。

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ー自分を通して様々な役柄、人格を伝えていくのって、すさまじい仕事ですよね。

20代の時は、そのさまざまな人格を引き受けるということに苦しめられていたんですよね。最近は少し楽になったというか、20代の頃よりも肩の力が抜けてきました。30代には30代の難しさがあるということもわかっているけど、無駄な力の入れ方はなくなったと思います。必要なところに力を入れなくちゃいけない。

ー20代って、「自分が!」という感覚が強いと思うんですけど、30代になると、より大きなことをやるタイミングも増えるし、仲間を増やしていくみたいな感覚が生まれてきて、仕事の意味も少しずつ変わってくるように思います。

恩返しみたいなものですよね。人だけではなく、自分が生まれてきた場所に対する恩返しをする。自分が一生懸命やっていることが伝わって、影響するって、最高だと思うんですよ。誰かが話した言葉とか書いた文字で意識が切り替わる瞬間が人にはある。日本でもいいし世界でもいいし、地球でもいいし宇宙でもいいし、その一部と言うか、そういう大きなものをイメージしながら、自分がそこで何ができるかということを考えています。そういう意識をみんな持った方が面白いのかなって。

ー使命を意識し始めるということですか?

そうですね。使命とか役割とか、ありますよね。卑屈にならずに、やるべきことを追うというか。

ー俳優として、より広く大きくなっていくなかで、挑戦したい役はありますか?

なんだろう……。何でもいいのかな。自分なりに何かを見つけることができれば、いいのかなと。ただ、30代にしかできない役というものはあると思うので、そういう役はやりたいですね。今回のラブコメは「陽のエネルギー」を持つ作品なので、そういうものが画面から出て観てくれる人達に届けたいと思っているんです。

ー陽のメッセージを届ける、というのは、今の時代において重要なことですよね。NYLONは、15周年を機に『NEW POWER NO BORDER』というテーマを掲げています。このフレーズに対してどのように感じるか教えてください。

これが基本になればいいと思うんですよね。地球の原住民が持っていた考えですよね。もともと地球に住んでいる人達は、ボーダーについて想像しなかったんじゃないかな。誰が線引きしたのかって、ルールとか宗教にしても作ったのは人で。だから、原点だと思いますね。インディアンと日本人の遺伝子が似ていると、どこかで聞いたことがあるんですけど、地球人は根っこの部分でつながっていると思います。

ーああ、なるほど。今あらためてつながることの力を考えるべきなのかもしれません。

1人の力じゃ何も変わりませんって、僕達は思わされちゃっているんですよ。でもそうじゃない。同じような気持ちを持ったひとりひとりを信じて、力を合わせたほうがいい。そうやっていくことが、未来につながっていくと思うんです。未来になにを残したいか。まず最初は、意識の問題ですからね。

高良健吾/Kengo Kora

1987年11月12日生まれ。熊本県出身。O型。主な出演作に映画『多十郎殉愛記』『アンダー・ユア・ベッド』『人間失格 太宰治と3人の女たち』『葬式の名人』、待機作には『カツベン!』12月13日公開予定。

INFO.

フジテレビ系木曜劇場『モトカレマニア』が現在放映中。主人公・難波ユリカが思いを寄せる元カレ福盛真ことマコチを高良健吾が演じる。

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STAFF
MODEL: KENGO KORA(TEN CARAT)
PHOTOGRAPHY: TAKURO TOYAMA(1994)
STYLING: SHINYA WATANABE(KOA HOLE)
HAIR&MAKEUP: MASAKO NINOMIYA
EDIT: SHOKO YAMAMOTO
INTERVIEW: TAIYO NAGASHIMA
DESIGN: MAKIKO OHYAMA
CODING: JUN OKUZAWA