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永瀬正敏、映画に懸ける想い

私達が憧れて止まない映画界のレジェンドと言うべき俳優、永瀬正敏。
主演を務めた最新映画『ファンシー』から紐解く映画への想い、
そして永瀬正敏が考える男らしさについてなど、スペシャルインタビューが実現。

ずるさ、欲望、そしてしたたかな強さ。それらを幻想と現実のあわいで描き切る映画『ファンシー』の主演、永瀬正敏にインタビュー。10代から映画の世界に入り、今も変わらない思いを持ち続ける彼に、映画のこと、大人の条件、そして未来を生きる上で大切な考え方を聞いた。

ー『ファンシー』、とにかく面白かったです。

本当ですか? 監督が泣いて喜びますよ。

ー廣田正興監督とは『私立探偵濱マイク』(1990年代〜2000年初頭に伝説的な人気を誇った映画とTVドラマのシリーズ)の時からご縁があったそうですね。

廣田監督は、テレビ版の濱マイクのメイキングでカメラを回していたんですけど、ある日「いつかは監督になりたい」って話しながら『ファンシー』の原作を見せてくれたんです。「僕が商業映画デビューする時は『ファンシー』をどうしてもやりたいので、出ていただけませんか?」って言われて、軽くいいよって返しちゃったんだけど(笑)、今回約束を果たせてよかった良かったなって思います。

ー約束を大事にされているんですね。

よくあるじゃないですか。「またぜひ」とか「いつかやりましょう」っていう口約束。果たされないまま終わるのがほとんどですよね。僕はそうなりたくない。やるよって言ったらちゃんとやるという、シンプルなことです。

ー廣田監督の執念も凄まじいと思います。

“監督が諦めなかったことは、本当にすごいですよね。出会ったのは16,7年前。これだけ長い時間をかけて形にするのは、言葉にするのは簡単でも、なかなかできることじゃない。大体諦めちゃうものですよ。違う方向への誘惑もあったはずだし。

ー映画の宣伝には「三角関係」というキーワードが挙げられていますが、この映画の内容って説明しづらいと思いました。

宣伝部さん泣かせですね(笑)。

ー永瀬さんだったら、どのように伝えますか?

僕は説明はしませんね。どう受け取ってもらってもいいと思います。バイオレンスなのか、ラヴストーリーなのか、奇妙な話なのか、ファンタジーなのか。どう観てもらってもいい。自由に解釈してほしいですね。ただ、お子さんは大人になってから(笑)。

ー過激なシーンも多いですもんね。永瀬さんの演じる鷹巣という人物は、どこか濱マイクと重なるように感じましたが、そういった意図はありましたか?

僕は意識していません。ただ、監督が濱マイクの世界観に影響を受けたということは多少あるかもしれませんね。僕達が『傷だらけの天使』だったりだとか『探偵物語』を見て心酔したように。他にもATG系の作品とか東映のヤクザ物の世界とか。

ー今回、お芝居をされる上で永瀬さんはどのような心構えでしたか?

今回は身を委ねようと思いましたね。せっかく監督にとっての最初の長編映画ですから、彼が作りたいように、納得できるように、監督の好きなように料理してもらおうと。あとは、山本直樹さんの原作漫画にある、引きの美学、引きのエロスを表現したいとは思っていました。原作の線描が孕む、瞬きするうちにふっと消えちゃうような儚さを映画としてどこまで出せるか。そういった意識はありました。

ー鷹巣は、郵便局と彫師という二足のわらじを履いていますよね。人の二面性を感じるというか、裏と表を行き来するような感覚もありました。

すべてひっくるめてひとつのものなんだと思います。郵便局員と彫師、それぞれに葛藤を抱えながらも、嫌がるわけではなくやっているという感覚でした。映画を観て感じることは全て正解なので、そう見て取っていただけたことは嬉しいです。

ーご自身で出演作を観ることってあるのでしょうか?

“映画が完成して出演者やスタッフが観るための初号試写会というものがあるんですけれど、それにはほぼ行かないですね。自分の粗ばかり探しちゃうんですよ。客観的に観られなくて。だから終わってから「素晴らしかったですよ!」と言っていただいても、「嘘つけ!」とか思ってしまう。自分の芝居にはまだ酔えないって言うのかな。もちろん共演している他の人達のことはすごいなって思えるんですけれど。あとでこっそり観ます(笑)。

ーいちばんの喜びはどんな時に実感されるのでしょうか?

観ていただいて、何かが心に引っかかった時です。映画は心に残るものであってほしいですね。まず劇場に座ってもらえたことがうれしい。大絶賛だけじゃなくて、ネガティヴな感想でもいいんです。何よりスルーされちゃうのいちばんつらいんですよ。全員精一杯のことをやり尽くして、後は観ていただいた方のモノ。「ご自由にお願いします」です。

ーお客さんの心に残った、というのは、具体的にどんな瞬間に感じますか?

劇場で舞台挨拶の時の皆さんの姿だったり、風の噂で聞いたり、直接や、お手紙をいただいたり、友達が言ってくれたりですね。ストレートな友達ばかりなので、面白かったらそう言ってくれるし、逆に「永ちゃん今回ダメだったよ」って言ってくれたりもするので。そういう感想もためになりますね。

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ー映画を通して、直接会って会話するよりはるかに親密な関わりをすることってありますよね。永瀬さん自身の映画に対する思いを教えてください。

まさにそれが映画の価値ですよね。僕はずっと、映画を信じているんですよ。デビューしてからすぐ2作映画に出演したんですけど、その後5年間くらい出られなかった時期があったんです。その期間はお金も全然なくて、時間だけがあった。だから、ずっと二番館とかで映画を観ていました。昔は階段に座って観させてくれたり、1日中いられる映画館も多かった。ヴェンダースだったりジム・ジャームッシュだったり、ミニシアター系の英雄みたいな人がちょうど日本で紹介されたりして、とにかくたくさん観ていました。

ー何歳くらいの頃ですか?

10代ですね。当時、ある女優さんから「『Stranger Than Paradise』っていうジム・ジャームッシュの映画、永瀬君は絶対好きだから観に行ってごらん」って言っていただいて、何の予備知識もなく観に行って、衝撃を受けました。

ーそこから30年以上の時間が経って、たくさんの映画に出演されていますが、当時感じた映画に対する思いに変化はありますか?

映画を信じる気持ちは全く変わっていません。裏切られたことがないんですよ。出るほうでも、観るほうでも。僕は一貫性がないし、優柔不断だと思っているけれど、映画への思いだけは変わらない。映画にずっと助けられていますね。少し、昔の話をしてもいいですか?

ーはい。もちろんです。

僕を役者として導いてくれたのは、相米慎二っていうおかしな監督で、デビュー作『ションベン・ライダー』の体験があまりにも強烈だったんです。相米監督からは1回もOKをもらえなくて、OKのかわりに「まあ、そんなもんだろう」って言われていたし、いつの間にかプラカードを作ってきて、表が△で後ろが×と描かれていました。決して○はもらえなかったんです。それだけやられても僕は相米監督のことが好きで、いつか相米さんがカットをかける時に思わず「OK!」て言ってしまうような役者になるという目標をずっと持っていました。相米さんは先に天国に行ってしまったので、永遠にその目標は達成できなくて、ずるいなって思ってるんですけれど、その目標は今も変わりません。

ーその満たされなさが、何かを突き詰める上ではすごく重要なことなのかもしれません。

そんなにかっこいいものでもないんですけどね。自信がないだけで。やってる時は150%ぐらい出してると思うんですけれど、きっと死ぬまで満足はできないと思います。

ー今のお話は、「泥船に乗っていてもお前の人生の時間は自分のものだから、どうにでもできる」という作中のセリフと繋がるような気がします。

常に自分の時間を全うしたほうがいい、と思いますよ。僕の若い頃から時代は変わって、今の若い俳優やクリエイターには選択肢がいっぱいある。全部やったらいいと思うし、やらない後悔よりやって後悔したほうがいい。昔は役者がレコードを出すと叩かれたし、ミュージシャンが映画に出ると批判された。洋服の世界でも、パターンを引けてこそデザイナー、みたいな風潮があって、好きな柄をプリントして売ったら最初はバカにされたりして。今はもっと自由でいいという社会のムードになりつつあるし、僕自身はずっとそう思っています。ただいろんなことをやればいい、というわけでもないですけどね。役者1本、写真1本の人もいていいし、伝統芸能や工芸品のように、ひとつの文化を極める姿勢にも憧れます。自分が選んだ時間を生きるっていうのは、かっこいいですよね。

ー永瀬さんが思うかっこいい大人の男性の条件について、教えてください。

僕を役者として導いてくれたのは、相米慎二っていうおかしな監督で、デビュー作『ションベン・ライダー』の体験があま上手じゃないことですね。器用じゃなくても、ぶつかりながら、懸命に進む人のほうが魅力的だと思います。中学生時代からずっと好きなロックの神様、イギー・ポップやジョー・ストラマーに会って話したんですけど、彼らは本当にいい人で、決して上手にやろうとしないんです。僕みたいな東アジアの知らない国から来た役者に、イギーは「困ったことがあったらいつでも連絡して」って電話番号をくれたり、「それ良い革ジャンだね」って褒めてくれたり。ジョー・ストラマーは「昔は電車に乗ってたら目が合った人に挨拶してたけど、今は目をそらす人が多くて寂しい」というようなことを言っていて。労働者階級から出てきて音楽を作っている人達だから、目線が優しいんですよね。

ー永瀬さんがロックの神様に憧れたように永瀬さんに憧れる人も多いと思いますが、逆に若い俳優で注目している人はいますか?

いっぱいいますよ。きっと書ききれないですよ(笑)。共演した人達はもちろんですし。最近お父さん役が多くて、映画のなかで架空の家族が増えて、子供がいっぱいできた感覚です。その子達もみんな特別です。1回血が繋がっているというか……血が繋がってなくても家族にはなれたというか。僕には実際の子供はいないけど、未だに欲しいしあきらめてはいないです。募集中ですね(笑)。あと僕は幼い時に弟を亡くしてるから、お兄ちゃん! とか言われるのも弱いですね。何でも買ってやる! みたいな気になる(笑)。

ーお兄ちゃん! って呼びたい方、たくさんいると思います。

呼ばれすぎると、なんでも買いすぎて危ないので、止めてもらわないと(笑)。

ー最後に今回のNYLONの「NEW POWER NO BORDER」というテーマについて感じることを教えていただきたいです。

自分で勝手に壁の高さを上げないほうがいいと思います。俳優という職業でいうと、海外でお芝居させていただく中で、言語や環境の違いはあっても、つくることの根本は一緒だと知りました。僕がデビューした若い頃はフランス映画やアメリカ映画は別格だなと思っていたんだけど、今は日本の役者、女優さんは世界一だと思っています。準備期間や予算が少なくても、一流の仕事をやっている。ハリウッドの役者さんが1年2年かけて役を作っていくところを、日本では下手すると3日でやったりするんです。制作に携わる人達もすべて含めて、僕は胸を張っていいと思う。だから、自らを下に見るんじゃなくて、胸を張って世界へ行っていいと思います。軽やかにいてほしいですね。

永瀬正敏/Masatoshi Nagase

1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。1983年の映画『ションベン・ライダー』で俳優デビュー。これまで国内外の映画に100本以上に出演し、1991年には映画『息子』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞するほか、数々の賞を受賞している。2015年『あん』2016年『パターソン』2017年『光』ではカンヌ国際映画祭に3年連続で公式選出された初の日本人俳優に。平成29年度芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。現在朝日新聞デジタル&TRAVELで写真連載中。
masatoshi_nagase_official

Information.

漫画家山本直樹の短編作品『ファンシー』の実写映画の主演を、永瀬正敏が務める。永瀬が演じる彫師であり昼は郵便配達員もこなす謎多き男と、窪田正孝が演じる恋多き詩人、そして小西桜子が演じる詩人のファンの女性を巡って巻き起こる奇妙な三角関係を描く。2020年2月7日(金) テアトル新宿ほか全国順次公開。

Ⓒ2019「ファンシー」製作委員会
原作:山本直樹 監督:廣田正興

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※当選者にはTwitterダイレクトメッセージにてご連絡し、お送り先などを伺います。
※応募期間 2020年01月28日~02月25日

STAFF

MODEL: MASATOSHI NAGASE(ROCKET PUNCH)
PHOTOGRAPHY: GENKI ITO(SYMPHONIC)
STYLING: YASUHIRO WATANABE(W)
HAIR&MAKEUP: KATSUHIKO YUHMI(THYMON INC.)
EDIT: SHOKO YAMAMOTO
INTERVIEW: TAIYO NAGASHIMA
DESIGN: AKIKO MIYASAKA
CORDING JUN OKUZAWA