ビジネスで大切なことは
“得意なことで好きなこと”
―先ほど出版社は3年くらいアルバイトを続けていたとおっしゃっていまいしたが、結果他のビジネスではなく、この道に進まれた理由は?
いちばん仕事になると思ったからですね。本が好きだったというのはもちろんベースにはあり、何が自分にしっくりきたのかはわからないですが、本当にシンプルに面白かったですし、考えなくてもアイデアがどんどん出てきたので。なのできっと得意な分野なんだなと思いました。得意なことで好きなことは最強だと思っていて。誰が言っていたかは忘れましたが、「嫌いなことでも得意なことを仕事にするのはいい」って。仕事をする上でいちばん最悪なのが“好きだけど苦手なこと”。それを仕事にしてはいけないと思ったんです。してはいけない、というか効率が悪いなって。苦手なことで嫌いなことの方がまだマシ、こだわりがないから。順番でいうと、好きで得意>嫌いで得意>嫌いで苦手>好きで苦手、がビジネスでは大切だと思っています。本に関しては、いちばん好きでしたし、きっと得意なんだと思っていたので選びました。僕は編集っていうのは本を作るための1つの作業でしかないと思っていたので、編集という職種だけにこだわったことはないです。特にそれがやりたいとも思っていなかったし、ただ本を作りたいと思っていたので。そのなかで編集の仕事を多くやってきたのは、編集が得意だからだと思います。営業も得意だとは思っていますが。
―ご自身のなかで得意なことの基準はありますか?
考えてやらない、考えなくてもできてしまうことですね。寝ている時間以外はずっと仕事しているというのも、ずっと意識しなくても考えられてしまうということ。ということは絶対得意なわけで、苦手なことを朝起きた瞬間から考えるって、そんな苦痛なことはないですよね(笑)。僕はどちらかというと本自体が好きなので、ファッションやカルチャー、アート、音楽が好きなんですか? と聞かれるといつも他にもっと好きなことがある、と答えます。感覚でいうと、好きが30%で得意が70%くらい。
―途中で他の職業に転進する可能性はなかったんですか?
1人でやっていたらあったと思います。ただ5人であろうと10人であろうと、社員を抱えて会社を作った責任上、その人達は同じところを目指して働いているわけで、僕が「明日から饅頭屋さんをしようと思うんだけど」と言ったところで、社員は「え?」って思いますよね。もし自分がそう思ったとしても、それは別の会社を作った方がいいなと思ったので。辞めようとか逸れようとかそういう意味ではないですが、時代が変わっていくなかで世のなかの構造も日々変わっていくので、おそらくうちの会社も最初の頃とは今ではだいぶ違うと思いますし、それはやり方を変えていけばいいと思っています。なので他の道へは、ということはあまり意識したことがないですね。ただ、今も他のことを自分ではちょくちょくやっていたりしているというくらいで。
―この仕事の醍醐味とは?
作ったものに対して、多くのユーザーが喜んでくれているのを感じた時しかないです。わかりやすく言ったら、たくさん売れた時は、それはみんなが喜んでいるということなのですごく嬉しいし達成感も感じますが、売れなかった時は、あまり喜んでないのかなと普通にショックですね。
―では仕事のなかでいちばん自信があるものは?
少しひねった言い方になってしまうのですが、基本的に自分の考えやセンスを信用していないということです。客観的に見れる、俯瞰して物事が見れるということには自信があります。
―本当に中学2年生から考え方が変わっていないんですね。
自分の感情にいちいち左右されませんし、自分が作ったものへ批判に対しても、もちろん「え?」と思うこともありますが、先ほども言いましたが10分くらい落ち込むだけとか(笑)。自分が考えたこと、思ったこと、自分が考え抜いて導いた答えでさえ、一瞬でユーザーに否定される可能性はあって。でもそっちの方が正しいので。それも最初にも言った、こだわらない、固執しない、諦めるという考え方。物事の価値は僕が決めることではないと思っています。そこに自信があると言ったら変な言い方になりますが、でも強いて言うならそこかなと。自分のなかではごく普通のことですけど、会社の人達を含め、たくさん出会ってきた人を見ているなかで、意外とその執着から抜け出せない人って多いんだなと思っています。別にそれが悪いと言っているわけではなく、それはその人の特性なので良いと思いますが。あくまでも自分はこういうスタンスなので、それが自信という言葉にピッタリくるかはわからないですが、きっと人と比べると楽だと思いますよ。でも毎日新しいことを考えているから、やはりそんなことにこだわっている時間もないし、ダメだったら新しいことに次々行動していけばいい、という繰り返しですね。
―そろそろ締めに入りますが、NYLON JAPANが15周年イヤーに突入したということで、新たなヴィジョンを教えてください。
15周年で掲げている“NO BORDER / NEW POWER”というテーマは、もともとNYLON JAPANを立ち上げた時からあるテーマであって、新たに考え出したテーマではないんです。ですが15周年を迎えて、改めてちゃんと声に出してそれを言おうと。既成概念に振り回されてしまうとネクストスタンダードは作れないですし。それを作りたいということではないですが、常にそういうフィロソフィでこのメディアは存在してほしいと思っています。だからこそNYLON JAPANというコミュニティがあって、決してすごく大きなコミュニティだとは思いませんが、そういうフィロソフィを持っている人達がこのコミュニティに参加して携わってほしい。何十年も携わるわけではなくて、きっと5年くらいだと思いますがNYLON JAPANに関わったり好きになったなかで、このフィロソフィを一緒に体感してもらって、その後の人生でプラスになってくれればいいなと。ここは一生の場ではないと思うので、それを共有して、その先に飛び立ってもらえればいいなと思っています。“NO BORDER / NEW POWER”という、線をなくすことや新しい力というのはいつだっていびつで、今の世のなかにフィットしなかったりもします。そこにちゃん向き合うということは、自分達がリスクを背負うということなんです。それを作っていくのは仕事をしていくなかでとても大切だと思っています。今もうできているものを扱うのはリスクが少ないけど、何だかよくわからないものを扱うことは勇気がいること。それをちゃんと自分達で見て判断していかないといけないと思っています。
―では、最後に夢を追いかけるナイロニスタへメッセージをお願いします。
現在置かれている状況のなかで、やるべきことを100%やろうとする意思が大切だと思います。学生だったら学校の授業をしっかり受けるだとか、もう働いているのであればそこでの仕事を全うする、ということです。その先にそういった夢があるとして、そこに向かう時に今きちっとやってきたことが活かされるはず。メッセージ的に言うのであれば、今まで何度も語ってきましたが、楽しんでください、ということです。楽しくないということは、なぜ楽しくないのか必ず理由があるので。そこを突き詰めると理屈っぽくなってしまいますが(笑)。得意ではないところにいたり、絶対に何か要因があると思います。なので、“楽しい”という言葉は簡単ですが、とにかく楽しいと思うことを一生懸命やること。だから僕は、中2以来楽しくないと思ったことはないです。でも夢っていう感覚を持ったことは一度もなくて、小さな目標はあったとしても、こうなりたいとかこうしたいとかっていう夢を持つ感覚ではないんですよね。なんせ中2から変わってないだけなので(笑)。
Takashi Togawa/戸川貴詞 1967年生まれ、長崎県出身。明治学院大学卒。 2001年にカエルム有限会社(現・株式会社)を設立し、2004年に『NYLON JAPAN』創刊。 現在、同社代表取締役社長、『NYLON JAPAN』編集長、『SHEL’TTER』編集長などを務める。 |
ILLUSTRATION:PAMELA SUSTAITA
INTERVIEW:KAHO FUKUDA