サポートに徹したアシスタント時代、
ストイックだった1年目
—アシスタントはどのくらいされていたんですか?
6年くらいしていました。
-結構長い方ですよね? 当時の仕事内容や、どういう姿勢で取り組んでいたのかを教えてください。
やるからには全力でやらなきゃと思ってすごく真面目に取り組んでいました。朝から晩まで、真面目にやりすぎて現場では一言も発さないくらい。最初の頃は本当に初歩的なことですが、リース返却がいちばん多かったので、ほとんど力仕事で運び屋になった気分でした(笑)。あとは縫ったり貼ったりのような作業的な業務もありましたね。何年か経つうちにアシスタントのなかでのトップだった時は、リサーチと、資料探し、リースがメインでした。この頃には結構好きなことをしていた感覚があったので充実していました。
—アシスタント時代に意識の変化がありましたか?
2人のスタイリストに師事していましたが、最初の師匠のところでは下っ端なのもあってずっと同じ作業の繰り返しで、途中で面白みを感じなくなってきて……。どうしようと悩んでいたところで、別の方からお声がかかったのでそちらに就きました。2人目の師匠の仕事は今までと全く違う仕事内容で、自分が知らない撮影やブランドやヴィジュアルの情報がたくさん入ってきたんです。それまでとは全く違う世界だったので、私は何も知らなかったんだなと改めて認識して、必死で勉強しました。
—師匠が変わったタイミングで、自身のモチベーションに変化はありましたか?
基本的にモチベーションは同じでしたね。1人目の師匠はタレントや広告の仕事が多い方でした。でも、決して怠けていたわけではなく、とにかく与えられた仕事を全力でこなしていました。リース返却準備やアイロンや着替えなどの基本業務は完璧にこなしていた自信がありましたし、撮影現場の空気を読んで言われずともサッと行動して、アシスタントとしての役割は極めましたね。でも、もっとファッションの仕事がしたいと思うようになり、今いる環境ではもう学べないと感じたので2人目の師匠に師事するようになったんです。それは仕事に対する姿勢が変わったというより、目指す方向性が変わったという感じですかね。でも、先ほど少しお話しましたが師事する人が変わって、自分の知識量のなさに焦りを感じて周りに追いつかなきゃと必死でした。一気に知らない世界が飛び込んできたというか、様々な仕事内容が次から次へと舞い込んできていたので頑張んなきゃと自分と奮い立たせていましたね。アシスタントをしていて飽きることはありませんでした。毎回乗り越える壁が違うので、辛いけど飽きずに楽しめました。
—では、独立してからの1年間の仕事はどういった姿勢で取り組んでいましたか?
1年目は、ストイックすぎたと思います(笑)。師匠のもとから独立する際に「仕事は選んで、なんでもかんでも引き受けない方がいい」と助言されていたのをまともに受けて、自分もそのスタンスでいたんです。なので、あまり仕事はなかったですね……。お金興味がなかったのでギャラがなくても、自分のやりたいことができる作品撮りをしたり、海外誌のスタイリングを手掛けたり、師匠から仕事を振っていただいたタレントのスタイリングの仕事を定期的にこなしていました。今のように日本のファッション誌の仕事はほぼなく、今思えばかなり暇でしたね。独立したての頃は海外誌にしろ、自分の作品撮りにしろ、自分はこういうスタイリングしかしないって決めつけすぎてしまっていて、ストイックに作り込んだ撮影ばかりしていたんです。でも、日本の雑誌はもう少しライトというか時代の空気を作るものだから、作り込みすぎた作品だけじゃなくてもっとムードやノリを大事にしてもいいんだと気づいて、これはこれで楽しいなと思うようになりました。仕事に壁を作らないでいろいろやってみようと切り替えたら、仕事の幅も広がって日本のファッション誌の仕事も増えました。
—独立当初は仕事に対して内向的だったんですか?
そうですね。自分のなかでお金の優先順位が低くて、最低限あればいいやと思っていたんです。たぶん、アシスタント時代が長すぎて、自分が表に立ってガツガツ進んだり、自己アピールの仕方を忘れちゃったんですよね。常にサポートしなきゃという意識が強すぎて、アシスタントとしては完璧だけど、独立してからは“自分なんて”と謙虚すぎるくらいの姿勢でした。自信もなかったですしね。
—自信を持てるようになったきっかけは?
自信がないながら取り組んだ仕事が周りからも認められるようになって、「あれ、もうちょっと自分に自信を持ってもいいんじゃないかな?」と思うようになって仕事も増えてきたんです。やっぱり、自信がない人よりも自信がある人の方が仕事の依頼が来ますよね。師匠や世界中の名だたるスタイリスト達と比べすぎて、自分を過小評価しすぎていたんですよね。でも、いろいろなスタイリストがいて、私のスタイリングが認められているのならそれを他人と比べる必要がないなって気づいたんです。
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Yoko Irie/入江陽子 1985年、広島県生まれ。アシスタントを経て2013年独立。2016年からTRON management所属。国内外のエディトリアル、ブランドのLOOKBOOK、アーティストのスタイリングなど幅広く活動。女性らしさのなかにエッジを効かせたバランスのとれたスタイリングが得意。 Instagram :@yoppy0105 |
ILLUSTRATION: ERI AIKAWA
INTERVIEW: KAHO FUKUDA
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