辛い時こそ
「幸せな環境で仕事をしている」と言い聞かせる
—今まで経験してきたなかで、この仕事を辞めようと考えたことはありましたか?
アシスタント時代に頭をよぎったことはありますが、独立してからはないですね。
—では、この仕事が自分にとって天職だと思いますか?
そうですね。スタイリストと言いつつ、スタイリング以外にもできることはたくさんあるんです! それこそブランドにアドバイザーとして入ったり、自分でデザインを描いて衣装作ってもらうだとか。一概にスタイリングだけが仕事ではないんです。もちろん向いていないと思うジャンルもありますが、それはできなくてもしょうがないことだと割り切っています。「あの人すごいな……」と羨ましく思うところもありますが、そこに落ち込んでいても仕事が楽しいという気持ちが勝るので辞めたいと思ったことはないですね。
—この仕事ならではの楽しさや、やりがいはなんですか?
休日に友人と遊んでいる感覚と変わらないです。私の場合、遊びが仕事になっているなと感じていて、逆に辛い時こそ、「好きな洋服に囲まれて、お金もらえる仕事だなんてすごく幸せなことじゃん!」と自分に言い聞かせています。アシスタント時代は特にそうでしたね。どんなに辛くても洋服を見たら可愛いと思うし、好きな写真を見たらテンションが上がるし、そういうものに触れ合える環境で仕事ができるということは幸せなことだと思うんです。
—洋服好きところがモチベーションに繋がっていたり?
もちろん洋服が好きなのはあります。自分で買えるもの以外にこんなにもいろんなジャンルの洋服に囲まれて、なんて幸せな仕事なんだろうと思います。特にアシスタント時代は自分の欲しい洋服もほとんど買えなかったので、触れられるだけでうれしかったし、辛い時こそマインドコントロールのように「あなたは今幸せな環境で仕事をしているんだよ」と自分に言い聞かせていました(笑)。
—入江さんは結婚、出産を迎えられていますが、仕事をする上で何か変化はありましたか?
出産前はしばらく仕事に復帰できないと思っていたので、その間に仕事がなくなってしまったらどうしようと不安でかなり仕事量を増やしていました。ですが、出産が終わって物理的に仕事ができる時間が限られてきたり、考える時間が増えたので、1度独立当時のマインドに振り返って、自分のいちばんの強みが生かせる仕事に厳選しようという気持ちに切り替わりました。ブランドのディレクションなど、今まで来なかったような仕事が来るようになったのはこの頃からですね。出産前に比べて休みも増えましたが、売上が伸びたり、仕事の質が上がりました。
-ご自身が思うその理由はなんだと考えますか?
ずっとやり続けていたことが実を結んだのだと思います。例えば、東京コレクションのスタイリングはブランドと密に関わるんですけど、「これがないとスタイリングできないからこういうものを作ってほしい」、「シューズはこういうデザインのものを合わせた方が今っぽい」などと提案していくうちにそのブランドやプレスの方が「入江さんはこういう提案をしてくれるスタイリストさん」といろいろなところで広めてくれていたようで、今まで声がかからなかったような会社から仕事が入るようになりました。
-先ほどもおっしゃっていましたが、人との繋がりから広がっていったんですね。
もちろん最初は人と出会わないと仕事に繋がらないです。ブランド側に提案するのも最初はたまたま「こういうのがあったらいいなっていうアイテムありますか?」って聞かれて、提案していたらそれが当たり前のことに変わったんですよね。東京コレクションの仕事は正直そこまで報酬がいいかと言われたらそんなことないんですけど、見てくれる人も広がるし、コレクション後の評価で「あのシューズすごく効いていたよね」などと私が提案したアイテムの評判や売れ行きを聞くと、すごくうれしいし楽しいです。ただ楽しいから、自分がやりたいからというわけではなくて、1つ1つ真剣に取り組んでいたからこそ、それが結果的に大きな仕事に繋がったりするのだと思います。
-少しお話を戻しますが、子育てをしながら仕事をすることに大変さを感じますか?
確かに大変だとは思いますが、どうにかなるんです(笑)。子供に癒される時も多いですが、私は仕事を逃げ道にしているところがあって、家事や子育てと自分にいっぱいいっぱいにならないように、ベビーシッターに任せるなどお金をかけてでも仕事という逃げ道を作るようにしています。家庭と仕事、片方で疲れすぎないようにどちらにもリフレッシュする要素を持たせていますね。
-産後いつ仕事に復帰されたんですか?
会社員のように週5で何時から何時という定時の勤務形態ではないので、復帰といっても自分のペースで始められました。家にいる時間が増えたのでその間にいろいろと考えごとをしていたり、リフレッシュしたり、気持ちの切り替えができるようになりました。でも、自分でも早かったなと感じたのは、退院して10日後に東京コレクションのオーディションやフィッティングに参加していたことですかね。
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Yoko Irie/入江陽子 1985年、広島県生まれ。アシスタントを経て2013年独立。2016年からTRON management所属。国内外のエディトリアル、ブランドのLOOKBOOK、アーティストのスタイリングなど幅広く活動。女性らしさのなかにエッジを効かせたバランスのとれたスタイリングが得意。 Instagram :@yoppy0105 |
ILLUSTRATION: ERI AIKAWA
INTERVIEW: KAHO FUKUDA
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