どんな女性でも1人を忠実に描けば
読んだ人が絶対に共鳴するはず
-物語を作る上で参考にしているものはありますか?
めちゃくちゃ参考にしているのは、海外ドラマ。海外ドラマを観ることが生きる希望なので(笑)。
-どういう作品を観られるんですか?
ヒューマンドラマ系をよく観ます。人間関係が交差するみたいなもの。いろんなお母さんが出てきて、表面上ではうまくやっているんだけど実は問題があって……みたいなよくあるストーリーですけど。そういうドラマはよく観ますね。あとは、学園もの。やっぱり学園ものは面白いですね。イケメンがたくさん出てくるので(笑)。
-イケメンですか(笑)?
イケメン大好き(笑)。どういうものがかっこいいって思うんだろうと考えながら観ています。顔立ちではなくて、キャラクター設定のどういうところに自分はキュンとするんだろうとか、どういう条件が揃ったらかっこいいと思うんだろうだとか。そういったことを考えながら観ているから、結構ヒントにしているかもしれませんね。
-海外ドラマ以外に、例えば日常生活のなかで常に注目しているものはありますか?
夫の発言です。もう奇想天外なんです。極度に合理的だったり、極端に純粋だったりするので面白いですね。次に何が出てくるかわからないヒヤヒヤ感も出せたらいいなって(笑)。
鳥飼茜 『サターンリターン』第1巻 P112より (c)鳥飼茜/小学館 週刊ビッグコミックスピリッツ連載中
-作品のなかには鳥飼さんの実体験も結構入ってたり?
入っているか入っていないかと言われれば入っているけど、そのままかというと全然そういうことではないです。別になんとか上手くいっているし、そこまで鬱屈しているわけではないけど、なんとなく夫婦関係や親子関係って息詰まる時って絶対にあるじゃないですか。そういうリアリティみたいなものは絶対に作品にしないともったいないと思っていて。息詰まった分を返してくれって思っています(笑)。この苦しいという感情をちゃんと解析して、他の人にも一般化できる形にしています。もしかしたら誰かが救われるかもしれないし、自分も次同じ目にあった時のヒントになるかもしれないし、苦しんだ分お金にしておきたい(笑)。基本的に付き合っている人はいつも漫画のなかでは大きく反映されるんですよ。いちばんむき出しの欲求というか、自分は相手にこういうふうにしてほしいっていうこととか、いろんな気持ちが交錯する人間関係のなかでいちばん濃い存在だと思っているので。それが家族という人もいると思いますが、私はそれが付き合っている人なんです。で、そこには必ず問題が出てくるから、それを作品に転化するということは絶対にしています。
-登場人物はどのように設定を考えていますか?
バランスを見ていますね。他のキャラクターとのバランスを見て作った人もいます。例えば『サターンリターン』だったら、この人あまりにも深刻だし、その夫も闇があるし、その間で動くこの編集者というのはよほど当たりの軽い人でないとズンズン沈んでいってしまう……ということを考えてある程度チャラくしてみようとか、そういうことは考えています。
-主人公はどういう思いで描かれていますか?
これを描く前にSFみたいなストーリーをやってみたり、男性を主人公にした「これくらいにしか女の人のこと見えてないでしょうね」ぐらいの上から目線で描き切ったりしてみてわかったことが、やっぱり現実世界の女性を描くことが向いているんだ、ということ。いちばん自分のパフォーマンスが発揮できるとところなんです。みんなが求めてくれているということはもちろんですが、他の分野も描いてみた結果いちばん強く気づかされたところなんだと思います。現実にいる女性といってもいろんな種類の人がいるので、基本的にはどんなタイプの女性であれその1人を忠実に描けば自分とタイプが似てようが似てまいが、それを読んだ人が絶対にどこかで共鳴すると思うんです。「わかる!」っていう共感ではなくて、なんでかわからないけど目が離せない、みたいなものは感じるだろうと思っています。
-それがいちばん反映されている作品は?
『サターンリターン』の前に連載していた『先生の白い嘘』はレイプを題材にした漫画で、ここにもたくさんの女性が出てきますが、主人公以外のキャラクターも全部そういうふうに描いています。長くその人の時間を追って描いているということではなくて、その人がその人らしい発言をするということを重視していました。美鈴さん(『先生の白い嘘』の主人公)とか、そういう女性キャラクターは共感できるキャラではないにしても、共鳴させることができたって自分のなかで感じたんです。「こういう女っているよね!」みたいなことだけではないんですよね。それだけだとすごく軽い、自説を認めてもらいたい欲求を満たすものになってしまうので。
-確かにレイプの場合だと共感を得ようとしても、簡単に得られるものではないですよね。
そう、共感じゃないんですよ。共感は求めていないんだと思います。どこかで1箇所でも「あなたも頑張っていますね」って思ってもらえればいい。全体的に共感できるキャラクターは1回も描いたことがないです。あまり簡単に人なんかに共感なんかしないって思います。一般的に共感されなさそうなポイントがある人を描きたい。それをいうと今描いている主人公はそこからどんどん外れていくっていう流れにしたいです。
-最初は共感する要素があったけど、読み進めていくと「あれ、この人なんか変かも」って人物像が崩れていくような流れは印象的でした。改めてこの『サターンリターン』という作品はどういう切り口でストーリーが始まったんですか?
ひと言では難しいですね……。でも割といつも通りです。“いちばんベースの鳥飼茜”というところですかね。でも、前作の『先生の白い嘘』を描いている時と似ています。何となく自分の知り合いの話とか、本を読んだりして、こういうシチュエーションに陥った人間はどういう発言をする、どういうふうに思うんだろうなっていうことを、前作だと“レイプ”をテーマにじっくりやりましたが、今作は“自殺”に焦点を当てています。最終的に“失くす”ということになっているけど、それをまずは実体験で見聞きした気持ち、他人に自分がどれくらい寄り添えるか、理解できるのかっていうのを1回考えてみて、これだったらもっと奥まで考えられるなって思いました。自殺って「良くないよね」のひと言ですむようなことではないんですよ。残された人からするとすごく悲しいことだけど、「自殺やめましょう!」と言ってもする人はするので。不思議な話ですが自殺をしたい人からすると「自殺しないで」って止めたら怒るんですよね。怒る人はまだ元気ですが、絶望しちゃうんですよ。自殺を止められたら何もやれることがなくなってしまう。当然ダメなことだからやらないにこしたことはないですが、現実には年間何万人も自殺者がいて。虐待やレイプを含む社会問題で、みんなダメってわかっているのに絶対にその数が減らないことっていうのは、どこか視点を変えて見直さない限り減らないんです。今みんなが“一応”用意している答えではもう解決できない。だから、何か別の目線からそれを見てみたいっていうのは、そういった意味ではちょっと社会的なものを描きたいっていう気持ちがもともとあるものかもしれません。社会を変えたいとは思わないけど、ずっとそのまま放置しておくのは気になるんですよ。
-作品のなかにはどこかで社会的な問題に切り込むというか、ここでみんな関心を持とうよ! という呼びかけの要素も含まれているんですか?
あります。「社会を憂いています!」とかではないですが、ずっと同じことを繰り返しているところとかは、やっぱり興味がありますね。
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Akane Torikai/鳥飼茜 1981年生まれ、大阪府出身。2004年に読み切りデビュー。2010年には『おはようおかえり』が青年誌に初掲載され、2014年に「このマンガがすごい!2014」にてオンナ編第9位。2015年「第39回講談社漫画賞」一般部門にて『おんなのいえ』がノミネート。月刊モーニングtwoにて2013年10月号〜2017年11月号まで連載していた代表作『先生の白い嘘』は、「このマンガを読め! 2015」で第8位。現在、週刊ビックコミックスピリッツにて『サターンリターン』が隔週連載中、第1巻発売中。 Twitter :@torikaiakane Instagram :@akanetorikai |
ILLUSTRATION: AKANE TORIKAI
INTERVIEW: KAHO FUKUDA
DESIGN: SHOKO FUJIMOTO
WEB DESIGN: AZUSA TSUBOTA
CODING: NATSUKI DOZAKI
(c)鳥飼茜/小学館 週刊ビッグコミックスピリッツ連載中