HOME > It's Work Time vol.5 manga artist Akane Torikai 鳥飼茜 4/4

たくさん人の話を聞いてほしい
理解したり共感する何かを探すのは大切な事

-鳥飼さんの作品はまるで映画やドラマなどの映像作品のように物語が進んでいく印象がありますが、表情の切り取り方や横顔の配置など、何かそうなるような工夫が施されているんですか?

海外ドラマをずっと観ていますからね(笑)。昔のドラマも好きだし映画も好きなので、どちらかというと漫画の描き方を知らないんですよ。現担当者から「漫画一緒にやりませんか?」と誘われた時、その時は前の漫画の連載をしている時で「普通の漫画ではありえないコマ割りしますよね」って言われたのがちょっとショックでした。漫画の描き方がなっていないって感じがしたのかな。ディスられたとは思っていませんが、自分が意識せずに自然とやっていることだったので、他の漫画とコマ割りが違うだなんて気がつきませんでした。

-リアルではないけど、“絵”のようではない。読んでいるうちにどんどん流れていって、いつの間にかページが終わっているような感じがしました。

それはずっと昔に、漫画を研究しているアメリカ人の友人がいて私に「どんな漫画描いているの?」と尋ねてきて、その時描いていた自分の漫画と大好きな古谷先生の漫画を両方見せたんです。そうしたら、「古谷先生の漫画にあって、あなたの漫画にないものは“時間”なんだよね。時の流れ」って言われて、その時私すごくムカつきましたけど(笑)。「編集されて分割されているとはいえ、プロの漫画家の作品にはちゃんと時間が経過している。それが感じられない」って言われて。そこからずっと時間を気にしているんですよ、どうやったら時間が感じられるかって。でも、映像に付随して時間ってついてくるじゃないですか。なので、その感じをずっと試しているんですよね。言われた文句は一生忘れないんです(笑)、絶対解決してやるって思っているから。内輪話ですけど、『先生の白い嘘』の編集者に「どこがダメか教えてください!」ってわざわざ今作のゲラを持って会いに行ったんです。そうしたら、「物語の強度がなってない」とか「もともとあなたのキャラは強度が弱い」とか全部ダメなところを言ってくれて、それを全部受け止めて描き直して。描き直したっていうのもその人のために描き直したというか、この人が言ったことは全部クリアしないと出せないって思ったんです。その後に現担当者に相談したら「全部その通りですね……」って言われました(笑)。だから描き直しが半端じゃなくて、最初からめちゃくちゃやり直したんですよ。1カ月間ずっと直していました。こんなに単行本で修正したことは今まで1度もないくらい、ページも20ページくらい追加して、合計100ページくらい修正しました。

-自らダメ出しをされに出向いたんですね。

本当にたくさんダメ出しをしてくれたのでおかげで良いものになりました(笑)。そうしたら「すごいちゃんと直ってるね」、「もうこれはわかりづらいって言い訳できないね」「感情移入できるようになった」っていうメッセージをくれたんです。

鳥飼茜 『サターンリターン』第1巻 P218より (c)鳥飼茜/小学館 週刊ビッグコミックスピリッツ連載中

-今までの経験を通じて、ご自身で漫画家という職業をどう解釈されていますか?

なぜ漫画を描いているのかということはずっと考えていますが、漫画家っていろんな人がいて、絵が描きたくてなる人もいるし、物語が書きたくてなる人もいる。私は運良く漫画家になれたのかもしれませんが、私のなかではお坊さんみたいなものに近い気がしています。奈良の東大寺の『御水取り』という行事があるんです。そこでありがたいお話を参拝者みんなで聞くんですね。お坊さんの「みなさんが健康で朗らかな生活を送れることを常に祈っています」みたいな助言に、みんな「ありがたい」と思っているんです。私は正直「それだけですか!?」って思いましたけど(笑)。でも、お坊さんって人が亡くなったらお経をあげるとかも大変なことですよね。それに、朝廊下を拭いたり掃除したりっていうのは別に単なる家事をしているわけではなくて、私達が感じる「面倒くさい」って後回しにしていることを代わりにやっているんだなってある時思ったんですよね。例えば私の場合だと「漫画の話考えなきゃな」って思って散歩するんですよ。散歩していると道行く人とすれ違いますよね。そうしたらその時に見た景色とか感情とか、そういうもっと先のこととかまで私は足を止めて浸っていられる、普通の人は足を止められません。「夕飯の買い物に行かなきゃ」とか、「会社に戻らなきゃ」って思う人達に代わって、私はその場に立ち止まって考えることができるんですよ。でもその時みなさんは別の仕事をしているんです。だから私はそこで見たり感じたりしたことを商品にするところまで考えなくてはいけないんですよね。それにみんなお金を払ってくれている。つまり、お坊さんはとにかく本当に全力で人類の平和を願っている、それが仕事だと思うんです。そう考えたらそれは私には到底無理なんですよ。他の全員の代わりに全世界の人類の平和と健康を願う仕事って難しいですよね。でもそれに近いことだと思っていて、例えば女性の格差問題や暴力、自殺、友達を亡くしたらどうやって生きていけばいいのか、残された人はどうやって思っていればいいのか、私は実際に経験していないけれど他の人より考え続けることはできる。「考えた結果こういう発想がありました」っていうことを代わりに漫画として描いて「そういう発想になったんですね!」っていうショートカットの分、人はお金を払っているんだと思います。それが正解じゃないにしても、時間を使って考えた結果がこの答えだ、ということに対して商品という価値をつけてくれているんだと思っています。例えば、夫婦間の問題を知り合いから聞くけど、結局「夫婦ってなんだかんだあるよね」で終わりでもいいんですよ。でも私はそれについて考えることが仕事なので、なぜ多種多様な夫婦が最終的に同じような問題につまずいて、なぜどちらかが子供のようになってどちらかが親のようになってしまうんだろう、みたいなことを他の人にも当てはめられるような一般的な解決策みたいなものまでずっと分解していく。でも、普通の人は時間がないからしないじゃないですか。他人のことまで考えている暇もないし、興味もないのかもしれないですけど。でも私はそれが許されているお坊さんみたいな仕事なんです。なので、物語を書いたり、絵を描いたりは“ついで”なんです。でもものを作ることは全て孤独だと思います。若者には孤独ということに対して面白がれるスタンスを持ち続けてほしいです。

-読者のなかには漫画家を目指している人もいると思います。夢を追いかける全ての読者へメッセージをお願いします!

自分が発想するものであれば何でもいい。例えば人に話を振られた時になんて返事をするのか、ということも個性だと思います。それをそのまま描けばいいんです。難しいよくできた構造的な物語は思いつく人がやればいいと思いますが、やれない人はたくさん人の話を聞くということがとても大事で、たくさん人の話を聞くということは話を聞いた時に自分はどういう反応をするかということを知るということ。その時に他人の話のなかに自分が理解したり共感できる何かを探すことも物語を作る上ですごく大事なこと。自分の個性や売りがなんなのかということは自分1人では絶対にわからないです。キャラクターを漫画で描く時によく言われていましたが、その人を描くのではなく、その人の横にいる人との関係性でキャラクターがグッと見えるようになるんです。何かを作りたいと思っているけど、自分の個性や独創性に自信がないと思っている人がいたら、それは心配いらないです。でも自分の個性を知っていくという努力は絶対に必要で、最初から備わっているから花開いちゃいました、みたいな夢のような話もあるかもしれないけど、実際はほとんどそうではなく、一般人の自分が独創性を生かすというところまでやろうと思ったら、人一倍他人の話をいっぱい吸収することが必要なんです。聞き上手、相づち上手になるということではなくて、相手の反応やその反応に対して自分がどう思うか、とにかくたくさん試して初めてお釣りが出る。そのお釣りが自分の作品に生かされていくので、人の話をたくさん聞くに越したことはないです。

-それは全ての若者に対して言えることですね。最後に今後何か挑戦してみたいことがあれば教えて下さい。

ずっと思っているのは、海外の人に自分の作品を読んでほしいです。私が描いているものは日本の現実の話なので、外国の方が見た時にどういうふうに写るのかな、ということも気になりますし、逆に国や文化が違っても私が大切に描こうとしている情感みたいなもの、人の発言や言動の源、感情は他の国でもわかってもらえるとしたらすごいなって思います。あとは、引退して何で食べていこうってことも考えていますね。喫茶店やろうかな、とか(笑)。

Akane Torikai/鳥飼茜

1981年生まれ、大阪府出身。2004年に読み切りデビュー。2010年には『おはようおかえり』が青年誌に初掲載され、2014年に「このマンガがすごい!2014」にてオンナ編第9位。2015年「第39回講談社漫画賞」一般部門にて『おんなのいえ』がノミネート。月刊モーニングtwoにて2013年10月号〜2017年11月号まで連載していた代表作『先生の白い嘘』は、「このマンガを読め! 2015」で第8位。現在、週刊ビックコミックスピリッツにて『サターンリターン』が隔週連載中、第1巻発売中。

Twitter @torikaiakane

Instagram @akanetorikai

ILLUSTRATION: AKANE TORIKAI

INTERVIEW: KAHO FUKUDA

DESIGN: SHOKO FUJIMOTO

WEB DESIGN: AZUSA TSUBOTA

CODING: NATSUKI DOZAKI

 

(c)鳥飼茜/小学館 週刊ビッグコミックスピリッツ連載中



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