「自分を好きになる」が私のテーマ
失敗は次の成功のために必要なもの
-こういったお仕事以外にもメイクを通じたボランティア活動をされていると伺いましたが、具体的にどのような活動をされていますか?
NYに行く前から、社会のために自分に何かできるか、何かしたいと考えていた時に、私にはメイクしかないなと思ったんです。老人ホームの入居者の方にメイクして、その写真を撮ってプレゼントしたら喜んでもらえるんじゃないかと思って、NYに渡ってからこのボランティア活動をスタートさせました。初めは社会への恩返しと思ってスタートさせたことだったのに、やってみたら自分がもらうことばかりで。友人が増えたこともそうだし、何より綺麗になった喜びのエネルギーをもらえるんです。それまでは私が与える側と思っていたのに、実はもらってばかりだったんです。
-ボランティア活動を行っているなかで印象的な出来事はありましたか?
たくさんありますね。メイクの力って人を変えるぐらいのエネルギーがあって。1度重度のアルコール中毒の女性が入院している病院に訪問したことがありました。ある女性は「私は絶対にやりたくない」って言い張っていたけれどみんなでお誘いして、絶対に赤リップが似合うと思って赤リップを塗ったんです。最初はすごく嫌がっていたのに、みんなで「綺麗!」って褒めていると段々「そう?」と心を許してくれた瞬間があって。そのメイクでプロのカメラマンが撮った写真をプレゼントしたんです。その後、彼女は2度とアルコールに手を出さなかったそうです。「私って綺麗!」と思うことによって自身を変えられることもあるんですよね。ボランティアをしているなかでこういう場面に出合うことが多いです。東北地震の被災地でも、お母さんが綺麗になると子供達が喜んで踊ったりしているんです。メイクの力ってメイクをされた人だけじゃなくて、その周りの人達も元気にさせる力があるように思います。この経験を通じて得たものは数えきれないほどあります。ちょっとでも綺麗になることが何かを変えるきっかけにもなったりするんですね。
-松井さんが考える“美”の定義とはなんでしょうか?
皆人それぞれの美しさがあっていいと思っています。その人らしい良さを日々のメイクで発見して、積み重ねていって、自分らしい美しさを追求して欲しいと思います。誰かと同じでなくていいんです。
-あまりメイクをするのが好きではない、面倒臭いと思う女性もいるかと思いますが、そういった女性もメイクにチャレンジするほうがいいと思いますか?
もちろん。若い時はあまり必要なかったりするでしょうけど、そうも言っていられない時が来ますからね。いつまでも綺麗でいたいという気持ちは忘れないでほしいと思います。
-これまで積み重ねてきたキャリアのなかで、大切にしている言葉はありますか?
「自分を好きになる」ということが私のテーマなのでこの言葉がまずひとつですね。あと、NY時代に母に言われた言葉で、「今起こっていることは全て自分に必要なこと。悲しいことも辛いことも全て今の自分に必要なこと」。失敗は次の成功のために必要なものだと思っています。
—その言葉を聞いた時は何かご相談されていたんですか?
初めてもらったNYのショーの仕事だったのに、1つの失敗でショーが全部キャンセルなって、泣き崩れてしまった時があって。その時はもうNYにはいられないって思いましたが、その失敗も必要なことだって母に言われてすごく救われました。誰でも失敗はするので、失敗を恐れてはいけない。失敗して辛いなって萎縮してしまうより、どうしたらその失敗を乗り越えられるかを考えることが大事で、それがまた次につながっていくと思うんです。だから失敗は必要なんです。そう思ったら楽になりませんか。
-メイクアップアーティストを目指している人や海外でチャレンジしてみたい人もたくさんいると思います。日本人が海外でアピールするにはどうすれば良いでしょうか?
今、海外では日本人がすごく活躍しているんです。真面目な日本人はアシスタントとして重宝されるんです。アシスタントとしてしっかり業務をこなせば「あの子良かったよ」と噂が流れて別のメイクさんからも声がかかったりします。1回上手く行くと次はショーで呼ばれたり、その人に気に入ってもらえたら専属で付いてほしいとお願いされたりするんです。私は日本に帰ってきましたが、今も残っている友達は一流の人達と肩を並べて向こうの事務所に所属している人も多いですね。日本人=繊細なメイクと思われているくらい技術も素晴らしいので、メイクアップアーティストは特に重宝されていると思います。NYは実力主義なので自分の作品をしっかり作って自信を持つことが大切です。
-ゼロから海外に踏み込むというより1度日本で準備をしていくべきだと思われますか。
本当にゼロからだとまた1から仲間を作って撮影しないといけないけれど、日本である程度ブックみたいなものを作っておけば、多少英語が話せなくても「こういうメイクができます」と作品を見せることができるので、作品があればみんな見てくれるんです。だから、最初から海外へというよりはまず日本でメイクの勉強をしたり、社会経験を積んでいくほうがスムーズに入っていけるような気がします。
-最後に、夢を追いかけるNYLON読者へメッセージをお願いします。
夢は必ず叶うと思うので、ぜひ海外に行っていろんな経験をしてほしいです。向こうでしか経験できないことはたくさんあるし、いろんな人達に出会えます。辛い時は確かにあると思います。それを乗り越えた時、大きなステージが待っているかもしれない。失敗を恐れず、挑戦してほしいですね。ただ、自分のオリジナリティで勝負していくことがいいと思います。自分は何が好きか、何に向いているかをしっかり考えて、それを磨いていけたらいいですね。自然体で自分らしく、そして絶対上手くという思いで……。失敗=経験だから失敗しても諦めないでほしいです。日本のメイクさんやヘアさんは手先が器用で我慢強さもあり、これからも海外で活躍する人が増えると思います。その経験はどんなことにも対応できる力が養われると思うので、我こそはと思う人がいたらぜひ海外に出向いてください。行くと決めるのは自分。思い切った決断をしてほしいです。
Rika Matsui/松井里加 2000年よりNYを拠点にミラノやパリでメイクアップを行い、2006年帰国。国内外のファッション誌のみならず、ビューティ誌でもそのハイエンドなクリエイションを提案。化粧品のアドバイザーやコンサルタントとしても活躍する。多くの海外セレブのメイクも。 Instagram :@rikamatsui26 |
ILLUSTRATION: RURU
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