普段主人公になれない人達を描き続けたい
そこに対する愛にフォーカスしたいんです
-『転がるビー玉』では女の子達の青春ストーリー、『魔法少年☆ワイルドバージン』ではコメディ調、『サラバ静寂』では音楽が禁止された世界を描いた社会派な内容だったりと幅広いジャンルを手掛けられている印象があります。ストーリー性は全く異なるようにも感じますが、共通しているものはありますか?
共通しているのは、メインストリームに立てない人達を主軸に据えていることだと思います。例えば『黒い暴動❤︎』でいえばガングロギャル、『サラバ静寂』では、音楽が禁止されているのに音楽を求めている人、『魔法少年☆ワイルドバージン』は童貞だし、『転がるビー玉』は上手くいかない女の子達。カリスマ性のある人に焦点を当てるっていうやり方もあると思いますが、僕はそこではなくて普段主人公になれない人達を描き続けたい。そこに対する愛を向けたいという思いはずっとあります。
-そういったアウトサイダーな方々をフォーカスする理由は?
単純にそういう人に興味があるんだと思います。例えばギャルだとしたら、圧倒的に自分が不利な方向に自分で持っていってると思うんですよ。僕が取材していたガングロギャルは爪が長くて缶も開けられなくて、しかもモテるかと言われればモテないし。それでも彼女達はギャルでいたいんですよね。『サラバ静寂』でも、音楽が禁止されているにも関わらずそれを求めてしまうとか。
-2月7日に公開される『転がるビー玉』について伺いたいと思います。制作前にNYLON編集部と対面しましたよね。実際に会ってみて参考にしたことはありますか?
いい意味で結構スポ根だなと思ったんですよね。そもそも毎月締め切りがあるものをやり続けるのって大変じゃないですか。終わってもまたすぐ次が始まって、締め切りに追われて。それを続けるにはやっぱり何かしらの愛がないとできないと思うし、それを強く持っている方々だなと強く感じました。しかも、ファッション誌がやりたいとかじゃなくて、NYLONでやりたいっていう思いが強いじゃないですか。そこがすごくいいなって思いましたね。でも、あまり編集部に焦点を当てすぎてしまうと編集部の話になっちゃうので、そこは上手くバランスを取ろうと意識していました。NYLONの映画だからNYLON編集部をがっつり写すとなると本当にプロモーション映画になってしまうので、そうはしたくないなと。
-作品に反映された具体的なエピソードはありますか?
昨年の4月に行われた15周年パーティに行った時、シャンパンタワーをやっていた時が結構カオスで、みんなシャンパンをもらいに行くけど酔っ払っているし、来る人と出る人が一気に集まるからグラスがそこら中でパリンパリン割れていて(笑)。その時にすれ違いざまにいた子が「1日で何個シャンパングラスが割れるんだろうね」と言っていて、なんか切なくていいなって思ったのでそのまま使ったりしました。
-今作はどういう思いで制作されましたか?
今の渋谷と、そこに生きる夢を追う若者達の映画を作りたいなと思い作りました。高校の時からずっと渋谷に遊びに来ていたし、大学が青山学院大学なのでより来る回数は増えて、今は渋谷でVANDALISMっていう会社もやっているし、僕のなかで渋谷への想いはどんどん増えているんです。でも映画館「シネマライズ」とか、ライヴハウス「屋根裏」とか、古着屋「ゴーゲッター」とか、僕が高校生だった頃に渋谷のカルチャーの発信地だった場所が、今全部なくなっちゃってるんですよね。しかも、渋谷の再開発はどんどん進んでいって、おそらく今ある風景もすぐに変わってしまうんだろうなって思ったんですよ。だからこそ、どうしても変化する渋谷と、そんななかで変化出来ずに焦っている若者達を撮らなければならないと思いました。
-プロデューサーとしてNYLON編集長の戸川を迎えた理由は?
渋谷のストリートから発生したカルチャー感がある映画を撮りたいと思って、ではどこと一緒にやるのがいちばんいいんだろうって考えた時に、僕が浮かんだのがNYLONだったんです。NYLONに出てくる女の子達ってちゃんとストリートマインドのある子達な気がしていて。自分ら発信して、何かを表現しようとしてくる子達がすごく多いし、独自の美学みたいなものを持っているし、なおかつNYLON編集部も渋谷にあるし、っていうことで企画を持っていったんです。
-もともと監督から持ち寄った企画だったんですね。映画制作にあたり最初はどういうところから話が進んでいったのでしょうか?
いちばん最初はやっぱり渋谷に住む女の子達の話にしたいというところから。NYLONの映画となるとファッション映画だと思われてしまいますが、そうではなく、派手ではないけれどしっかりと登場人物の葛藤を描いた映画にしたいっていうのはずっと話していました。それで、「じゃあ今の子達ってどういう子達だろう」っていうところを詰めていく作業をしていきましたね。
-そういった女の子像はリサーチされたり、どこかにインスピレーション源があったんですか?
そうですね、たまに演技のワークショップをやっているんですよ。そこに来てくれるのが20代前半〜半ばくらいの男女がメインなのですが、その人達が一生懸命夢を目指す姿がすごく美しいなと思っていて。上手くいかないことのほうが多いけれど、そうやって悩んでいるからこその魅力を強く感じていて。もともと僕が俳優部なので普通の監督よりも俳優部の気持ちがわかるし、距離が近いからよく飲みに行ったりもするし、っていうなかで、彼らの悩んでいる姿の美しさ、夢を追いかけることの美しさをとにかく映画にしたいと思っていました。だから、リサーチというより彼らが言っていた言葉がすごく入っているかもしれないです。1人がモデルではなくて本当に何百人っていう人数ですが。例えば「お前カメラ向けられると作るじゃん、あれ面白くないんだよね」っていうセリフとか、「あんた憧れでやってるんでしょ。死ぬ気じゃないなら辞めたら?」っていうセリフは実際にとある人が言ったセリフを基に書きました。
-映画内の印象深いセリフは実話から生まれていたんですね。
はい。自分にとってはすごくキツいこととか、言われたくないことってあるじゃないですか。そういうことって実はいっぱいあると思っていて、そういうささやかな傷を負いながらそれでも夢を追いかける女の子達を描きたいなと思ったんですよ。それに対して何も言ってあげられないけど、わかっている人はいるんだよって伝えたかったんです。だから彼女らの悩んでいる姿をただひたすらに映し続けようと思いました。あなたは上手くいっているから大丈夫、なんて綺麗事は言えないけど、悩んでいるあなたの魅力を分かってくれる人は絶対にいるから大丈夫だよって作品で言いたかったんです。
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宇賀那健一/Kenichi Ugana
1984年生まれ、東京都出身。青山学院大学経営学部卒。ブレス・チャベス所属の映画監督/脚本家。過去作に『黒い暴動❤』、『サラバ静寂』他。2019年には『魔法少年☆ワイルドバージン』が公開となった。 |
ILLUSTRATION: MYOKAHARA
INTERVIEW&EDIT: KAHO FUKUDA
DESIGN: AZUSA TSUBOTA
CODING: JUN OKUZAWA