HOME > It's Work Time vol.10 movie director Kenichi Ugana 3/4

『転がるビー玉』っていう曲を作るまでの話
恵梨香の曲が作られていくと共に進んでいく

-今回、若手俳優の方々が多かったり、公開オーディションでメインキャストの萩原みのりさんが決まったりしていましたが、どういったキャスティングでこのメンバーを選ばれたんですか?

メインになる3人は、それぞれの持つ芝居のテイストのバランスはすごく考えましたね。たぶん吉川愛さん(以下吉川さん)も今泉佑唯さん(以下今泉さん)も萩原みのりさん(以下萩原さん)も芝居に対する考え方って全然違っていて、だからアプローチも違っているし、それが逆に上手く噛み合っていていいものが生まれたんじゃないかと思っています。

-撮影現場の雰囲気はどうでしたか?

最初は3人とも人見知りだったのでめちゃくちゃ心配だったんですよ(笑)。NYLONで発表する撮影があったじゃないですか。あの時、3人ほぼ話していなくて、「うわ、これはやばいな」って思っていたんですけど(笑)。現場が始まったらすごく和気あいあいとしていて、実際に仲良くなってくれたので順調に進んでいきましたね。

-今作では印象的なシーンが多く見られました。例えば今泉さん演じる恵梨香が神尾楓珠さん演じる祐也に寝ている時に見た夢の話をするシーンとか。

これも僕の知り合いが実際に言っていた話なんですけど、彼氏と住みだしてから夢を見るようになったって言っていて。それまでにも夢は見ていたと思うけど、「夢を見ても誰かに言わないと忘れちゃうから、今まで夢を見ていないと思ってた」って話をしていて、それが恵梨香の「私たぶんいつか夢を見なくなっちゃうと思うんです」っていうセリフになったんです。いつかは家を出ていかなきゃならないことの悲しさをそういったセリフで表現できたらいいなと思いました。

-今作を撮影しているなかで考え方や捉え方が変わったことはありましたが?

制作前から毎日渋谷にいたので風景を流して見ていたけど、意識して見るようになりましたね。『転がるビー玉』では工事中の場所を映したかったんです。公開時期にはなくなってしまう、もしくは風景が変わっている場所を一生懸命探していて。だから、恵梨香が歌っているところは今工事中ですけど、たぶんこの半年でもっとできていると思うんですよ。あと、サラリーマン役の山中崇さんのシーンだと、まだ渋谷スクランブルスクエアができていないし、改装中の渋谷PARCOがチラッと映ったり。そういう工事中の場所をずっと探していました。

-萩原さんが演じる瑞穂は恋愛で悩む役柄ですよね。他の2人は自分の夢を追って悩んでいるけど、彼女だけ恋愛に悩んでいるのは印象的でした。

全員がそれぞれの夢を追うのはちょっと違うなって思ったんです。それこそ本当にスポ根系の話になってしまうから、そうじゃない悩みを抱えている人がいいなと思っていました。そもそもNYLON編集部って結構特殊じゃないですか。編集部内での悩みを抱えるとなると、その状況を説明するのにすごく時間がかかっちゃうんですよ。校了がどうとか、その説明だけで10〜15分くらい取られちゃう気がするし、そうなるとおのずと悪役を出さなきゃいけなくなる。それだけの話ならいいんですけど、3人の話だからそこに焦点を当てるとかなりボリュームが出てきてしまうので、彼女は恋愛で悩む役にしようって思いました。

-今作のインスパイア元ってあるんでしょうか?

『ワン・プラス・ワン』っていうジャン=リュック・ゴダール監督の映画で、ザ・ローリング・ストーンズが『悪魔を憐れむ歌』っていう曲を作るまでのドキュメンタリー映画なんですけど、今回は『転がるビー玉』っていう曲を作るまでの話なんですよ。なかなか曲ができない恵梨香が、何か1歩だけ踏み込んで曲を作って住む家から去っていく。ひと言でいえばたぶんそういう映画。それを活かしたいなと思っていたので、あえて前半の劇伴は少なくして、恵梨香の曲が作られていくと共に映画が進んでいくようになればいいなと思っていました。

-エンディングにも何かこだわりはあったんですか?

多分、他の監督よりもエンディングに向けてのこだわりがすごく強いんです。『黒い暴動❤︎』もエンディングで泣いたっていう人が結構多いし、『サラバ静寂』もそうなんですけど、最後どう見せてなおかつ音楽とどう絡めるかっていうのはずっと意識していました。ボブ・ディランの『Like A Rolling Stone』、あれば“転がる石ころ”ですけど、それを今の渋谷の女の子達に当てはめるとなんだろうって思って『転がるビー玉』にしたんですが、それが最後にかかってまとめる構成にしたいなと思ったんです。

-ビー玉を題材にするのは珍しいと思いました。もとはボブ・ディランの曲から広がっていったんですね。

宝石になりたいけど宝石にはなれない。中途半端な位置にいる女の子をどういう言葉であらわそうかなって思った時に、ビー玉がいいかなと思ったんです。それと同時に、僕が渋谷で物件を探している時に1年で取り壊されてしまうマンションがあったんです。めちゃくちゃ安くて広いんだけど、床がビー玉が転がるくらいすごい傾いているし、周りはずっと再開発で工事の音がしていたんです。そういう場所に住んでいて工事の音を聞きながら焦っている子達の話だったらどうかなというのも「ビー玉」にした理由の1つでした。そういった環境に住む女の子の話にしたかったので周りの工事の音などの仕上げは拘りました。きっと周りのビルはどんどんなくなっていって、自分らのビルもあと数カ月でなくなるってわかっているけど気づかないフリをして住んでいる女の子達というのは重要だと思ったので。

宇賀那健一/Kenichi Ugana

1984年生まれ、東京都出身。青山学院大学経営学部卒。ブレス・チャベス所属の映画監督/脚本家。過去作に『黒い暴動❤』、『サラバ静寂』他。2019年には『魔法少年☆ワイルドバージン』が公開となった。
Instagram @kenichiugana

ILLUSTRATION: MYOKAHARA

INTERVIEW&EDIT: KAHO FUKUDA

DESIGN: AZUSA TSUBOTA

CODING: JUN OKUZAWA

 



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