絶対に曲げたくないのはコンセプト
「ただかっこいい」という理由ではやらない
−山田さんの作品には何かインスピレーション源があるのでしょうか?
映像を作るために映像を見るのは僕の感覚的に合わなくて、映画から影響を受けることもそんなにないです。いち作り手なので、「こうやって撮ってるんだ」とか「多分機材はこれ使ってるんだろうな」みたいな感覚で見ています。だから文化的なものでいうと、映像よりも本とか音楽かな。本は視覚的なものではないから1行から想像できることがあるじゃないですか。例えば(NYLON JAPAN 2月号の『It’s Work Time』を読みながら)「原宿の母に教わりながら」って書いてありますけど、僕は原宿の母がわからないので、この1行からなんとなく“ちょっと不思議な雰囲気の眼鏡かけているおばあちゃん”かもって想像できますよね。でも映像で原宿の母が出てしまったら、こういう人だって断定されてしまうので、そういう意味では情報が限定されているもののほうが想像の奥行きがあって好きです。ただ、本も音楽もそれで映像を作ろうとはならなくて、単純に吸収しているだけかもしれません。。
−ではアイデアはどうやって生まれているんですか?
アイデア自体はずっと考えています。歩いていてもご飯を食べていても、「なんかこれ面白そうだな」ってなんとなく膨らんだらその時にすぐメモしています。アイデアの種をメモ帳にいっぱい書いておいて、それを後々見返しながらちょっとずつ掘り下げて、MVのオファーが来た時に曲の意味とかいろんなものを汲んでメモを見返したり。あとは、写真を撮るとか。普通に街を歩いていて「綺麗だな」って思って携帯で写真を撮ったりして、なんとなく時間ができた時に「こんなの撮ってたっけ」って思い出してもうちょっと考えてみる。そういうアイデアの種を上手く結びつけて1本の作品にしていくこともあります。
−友人と遊んでいる時や恋愛など、ご自身のプライベートから得ることもありますか?
プライベートからはないかもしれないです。もちろん友達と遊んだりもしますけど、可能な限り家にいたくて、本を読んだり音楽聴いたり最近は楽器を弾いたり。誰にも会いたくない時は本当に会いたくなくて、コンビニにも行きたくないから全部UberEATSですよ(笑)。企画から編集までって考えると家にいる時間のほうが多くて、撮影現場以外の自分で考えないといけない、自分で手を動かす場所って感じです。ひと言も交わしたくないし、誰とも顔合わせたくないっていうタイミングがちょくちょくあるんですが、それが全然心地良くてやりやすいですね。だから会社にも所属していないし、誰とも映像チームを組んでいないっていうのもあるかもしれないです。
−クリエイティヴに関してここだけは曲げたくないというこだわりはありますか?
コンセプトですね。例えば旗を振る行為をするとして、ただかっこいいからといって旗を振ることはやらないです。旗を振るということに意味のある形でやりたくて、旗を振れる人が10人欲しかったけど予算やスケジュール的に3人しか集められなった場合、3人でも旗を振る意味が残れば採用します。そういう取捨選択は毎回現場でもあって、「このレンズは今回予算的にハマらない」とか、「この背景の紙は在庫がない」っていう時にでもそれを拾うか拾わないかは結局コンセプトにとって大事かどうかでしかない。そのコンセプトが結局作風としては“冷たい”とか“不思議”とか繋がっています。
−最近だと菅田将暉さんの『キスだけで feat. あいみょん』のMVでは、家具が吊るされてゆらゆらと揺れているシーンが印象的でした。
これでいうと、吊られている家具とかのワイヤーが普通に見えているんですけど、最初は完全に浮いているものでやりたかったんです。でもライティング的にどうしてもかわせないし、カメラも写ってしまう、編集で消すのも難しそうと言われたので、「逆に見せるか!」って切り替えたんです。ワイヤーをあえて見せることになったことで最後に人形みたいなものを出しています。
−今までにスランプを感じたことはありますか?
スランプはいちばん怖いので、スランプを感じたことはないですし、感じたくないから5年後や10年後に自分がどうなっているとか想像して事前に考えています。アイデアが尽きたことも今のところないです。
−そのモチベーションを保ち続けられる理由は?
スランプもそうですけど、焦りやプレッシャーはあまり感じていなくて、MVを撮り始めた頃からメジャーなアーティストのMVもいつかやるだろうと思っていて、そのためにどう努力していったらいいんだろうっていうことを事前に考えていました。当時はそれが10年後くらいかなって思っていたけど、実際にはそれが思ったより早く来て、その追い風に転けないようにと慎重にやらないとは思っていましたが、プレッシャーによる焦りはなかったです。
−“とりあえずやってみる”というチャレンジ精神を強く感じます。
そうかもしれないですね。あとは、もう怖くて。自分1人だし、映像について誰からも教わったことがないから自分から何も出なくなったらもう終わりだと思っていて。作品に勝ち負けはないと思っていますが、勝ちか負けかで言ったら勝ったことしかないし、いいものを作り続けて勝ち続けないと死んじゃうんですよ。1回のしょうもないミスでもそれだけで終わりという意識で。でもそのための基礎技術はないし、映像学校とか芸大に通ったことがないから基本的なことは今だに知らないことのほうが多いと思っていて。人と比べるより自分がどう努力するかなので、幅広くものを知りたいと思って大学院を受けたのもそうですし、最近は経済学の本も読んでいます。まだまだいろんなものを勉強したいですね。
−これまでいくつもの賞を受賞されていますが、賞を受賞したことによって心境の変化などはありましたか?
正直賞を意識して作ったことがないので、「ありがたい」ということでしかないかもしれません。「絶対にこの作品で賞を取ろう」って考えるのは本末転倒だと思っていて、賞のために作品があるのではなく、作品のために賞があると思っているので。自分がやっていることは、先ほどの「怖い」って言ったことにも関係しているんですけど、結局自分のインスピレーションで出てきているものを普遍化する作業だと思っていて。自分的には「これがかっこいい」と思って撮っているのが隣にいる友達も「かっこいい」と思ってくれていたらうれしいし、その友達の10人、1,000人、1万人、何十万人、何千万人って人達の「かっこいい」にしたい。基本的に物作りは見てもらわないと意味がないので、かっこいいをどう撮るべきなのかを考えることが重要だと思います。でも賞という形にしてもらえることによって「あなたの感覚は間違っていないですよ」っていうことを証明してもらっていると思うのでありがたいです。海外の賞にもニアミスくらいのところまでいってドキドキはしているけど、絶対に欲しいというわけではないし、そこにはモチベーションはないですね。
−PARCOやラフォーレなどファッション系の広告もされていたとのことですが、ファッションに興味はありますか?
あります。でもファッションはまた畑として違う感じがしていて、いわゆるテレビCMともちょっと違うし、MVとも考え方が違うから生半可な気持ちでやりたくないなと思っています。音楽でもあるんですけど、ファッション的な文脈があるじゃないですか。そういうものをきちんと勉強しないと的確なアプローチはできないと思うし、そういう意味ではファッションに詳しくないので実は避けてるかも。例えばPARCOもラフォーレもこの服を使ってとかこの商品を使ってとなると難しかっただろうなって感じます。そういう意味で興味はあるので、やるんだったらきちんとやりたいから慎重になってるところはあるかもしれないですね。
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山田健人/Kento Yamada
1992年生まれ。東京都出身。映像作家 / VJ。独学で映像を学び、2015年よりフリーランスとして数々の映像作品を生み出す。同年バンドyahyelに加入しVJとして活動。 |
ILLUSTRATION: TAKURO TAKAGI @takurotakagi
INTERVIEW&EDIT: KAHO FUKUDA
DESIGN: AZUSA TSUBOTA
CODING: JUN OKUZAWA