求められているものを感じ取ることが大事
撮影はチームワークでヘアはそのひとかけら
−NYLON JAPANでも度々ヘアをお願いしていますが、NYLON JAPANでのクリエイションはどう感じますか?
NYLON自身の女性像ってあるじゃないですか。NYLON女子じゃないですけど、そういうズドンとした女性像があるので。いちばんは面白さだったり新しさがあるところかなって思います。女性像がしっかりしているけど、そこに対して自由にやらせてもらえるというか。そのなかでNYLON JAPANは他の雑誌と比べても常に新しさを強く求められてるっていうのは感じました。
−今号のガールファッションページもご担当されていますが、どういったヘアスタイルに?
いろんなシチュエーションごとに仲のいい女の子2人が楽しんでるという感じで、ヘア的にはわりと自由にさせていただきましたね。
−イメージを作りこんで撮影に臨むことが多いですか?
当日の朝まで何も考えずに撮影に臨むこともあるんですけど、今回はヘアを中心としたファッションストーリーで、10カット全てヘアスタイルを変えるということだったので、ある程度構想を練っていきましたね。
−ヘアスタイルを作る上で重視していることはなんですか?
細かいディテールと遊び心。綺麗なヘアもかっこいいんですけど、僕の場合それよりもちょっと変なバランスで崩れていたりとか、変なテクステャーになっていたりだとか、そういういたずら心で作るのが好きなんです。細かいディテールにこだわるほどクオリティが上がっていくと信じているので、ちょっとしたところまでこだわっていくことを重視しています。
−では、ヘアスタイリストとして働くにあたって大切にしているマインドは?
基本的にロンドンでも日本でも、チームのなかで仕事しているので、みんなから何を求められているのかとか、 全体の流れとかを感じることがいちばん大切。自分ができてないこともあるんですけど、それを考えることと、読み取ることをいちばん大事にしていますね。撮影はチームワークで、あくまでもヘアは最後に写真やムービーになるひとかけらのパートだと思っています。例えどん なにかっこいいヘアスタイルでも、撮影のストーリーや服、写真、モデルに似合わなかったらダメなヘアだと思います。みんながどういうヘアを求めているのかっていうボーダーラインをクリアして、そこから自分の持ち味をどこまで出せるのかが大切だと思います。アーティストとしてかっこいいものを追い求めるのであれば、もしかしたらそれは必要のないことかもしれないんですけど、 ヘアスタイリストとして働くとなったら人の気持ちを考えれるというか、人の欲しいものを考えれるっていうのは重要なことなんです。僕が100%できているかはわからないですけど、経験上そう思っていますね。
−その姿勢はアシスタント時代から貫いているように感じます。
そうですね。あの時の経験は結果としてここで活きてきたのかなって思います。俺もアシスタント時代不満しかなかったんで(笑)。あの時は本当に大変だったんですけど、今ポジティヴに考えてみればそういうところで培われたことだと思うと悪くはなかったなって感じます。
−仕事をするなかで難しいと感じる点はありますか?
“カルチュラルアプロプリエーション”なこと。今ブラックカルチャーのスタイルを白人のモデルにさせることが問題とされていて、少数のカルチャーをマジョリティーである白人がやると、文化の盗用ということで差別問題になっているんです。今それがロンドンでも大きくなっているんです。それが大変だなと感じます。もともといろんなカルチャーをMIXして新しいスタイルを作るのが好きだったんですけど、この問題に度々直面するので……。
−いろんなカルチャーをMIXしてやるほうが自由度があると感じますが。
そうなんですよ。あえて白人の方にコーンロウとかそういうMIX感が楽しかったりするじゃないですか。それが好きだったんですけど、まだ歴史的背景が根深いみたいでやりづらい時代になってきているように感じます。世のなかがこういうコンプライアンス的なことに過敏になりすぎていて、極力排除しようとしているからヘアにとってネガティヴな問題だと思っています。最近は人種がMIXしている人も増えているし、国と国とのボーダーラインも弱くなってきているじゃないですか。ロンドンとかヨーロッパはもっとすごいですけど、日本にもいろんな国の人が住んでいますよね。なんでこういう多様性の時代にこうなってしまうんだろうって。
−ご自身のキャリアを振り返ってみて、トップヘアスタイリストが10だとしたら、森岡さんは今どの段階ですか?
2くらいですね。それこそ海外のトップヘアスタイリストの方々が10って考えたら良くて2だと思います。ここ最近、経験値ってすごいなって思っていて。現場をこなしていけばいくほど自分の経験値が明らかに上がっていると感じていて、最初ロンドンに渡ってき始めの時よりもアイデアの引き出しも技術的な引き出しも全てがプラスになってきているんです。そう考えたらまだまだ足りていない部分って多いなと感じています。トップヘアスタイリストの方からしたらやっぱりまだまだ浅すぎるし、見えていないだけで足りていないところはいっぱいあるんだろうなと思います。そこに極力近づけるように頑張りたいです。
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森岡祐介/Yusuke Morioka
1984年、兵庫県生まれ。2014年に渡英、Hair Stylist Soichi Inagaki氏に師事。2016年にCoffin Inc(LONDON)に所属。2018年にはeight peace(TOKYO)所属となる。 国内外のファッション誌をはじめ、ブランドのキャンペーンビジュアルや、著名人のヘアスタイルを手掛ける。 |
ILLUSTRATION: ALICE BLOOMFIELD @Bl00MFIELD
INTERVIEW&EDIT: KAHO FUKUDA
DESIGN: AZUSA TSUBOTA
CODING: JUN OKUZAWA