肩書きよりも需要があることが大事
先輩方の言葉がパワーの源に
-島田さんは今でも芸人が軸に?
本当はそれでやっていきたかったんですが、もうコンビも解散してしまって相方も別の道に進んでいるので……。芸人だったらダウンタウンさんみたいになりたいっていう目標もありますけど、みんながそうなれるわけではなく、特に僕もなれなかった組なので葛藤もありましたね。「何やってるんだろう……」みたいな。でもこの時代から活かされているものはたくさんあって、例えば、伝え方とか、ものの話し方とか。あるいは、ずっと漫才のネタを作ってきたから、こう言ったら面白いんじゃないか、伝わりやすいんじゃないかと考えられるのは絶対に無駄になっていないですし、やっていて良かったと思います。占い師の方はたくさんいますが、結局占いって伝え方だと思うんですよね。占い終わった後に、同じ結果が出ても伝え方によってその人が元気になってもらうことがいちばんの目標だと思うんです。
-今年の8月に『島田秀平のお怪談巡り』というYouTubeチャンネルを開設されましたよね。よくテレビでも怪談や都市伝説を話している姿を拝見しますが、これらを話すようになったきっかけは?
小学校の時、1週間1回学級活動っていう時間があって、僕のクラスの先生はカーテンを閉め切って怪談話をしてくれていたんです。本当に話が怖いのもあるけど、話1つだけでこんなに盛り上げるってものすごいエンターテインメントだなと思って、そこから怪談の大ファンになりました。本を読んでは書き溜めて、小学5、6年生の時の自由研究は幽霊の研究をしていたくらい大好きでした。で、なぜ僕がこれをテレビで話すことになったかというと、コンビを解散してしまった時に、もう辞めようと思って事務所の大先輩である和田アキ子さん(以下アッコさん)に報告しに行ったんです。そうしたら、アッコさんから「せっかく10年もやってきたんだし、あと1年だけ頑張ってみたら? ただ、2つのことを頑張ってみて。複数やってると目線がどっちにもできて頑張れるから。で、年末に報告しに来なさい」って言われて手相と怪談をやるようになって。紅白歌合戦が終わった後、アッコさん家に行って「手相と怪談の2つを頑張ったんですけど、ちょっと仕事になり始めたんです」と報告したら「見とったぞ。2つ頑張ったな。おめでとう」って言ってくれたんです。
-手相と怪談、二足のわらじを履くことでリフレッシュにもなったり?
そうなんですよ。ずっと手相ばかり見て、悩みを聞いていたら多分いっぱいいっぱいになってるけど、そこで怪談や都市伝説のお仕事があると自分自身もリフレッシュすることができますね。
-今まで仕事をしてきたなかで、大切にしている言葉はありますか?
やっぱり、お笑いがやりたかったのに人の手相を見てるって今何してんだろ、って悩んだ時期があったんですよ。占い師なのか芸人なのか、でも芸人っていってもネタもしていないし、人のことを笑わせてないじゃんって自分でも肩書きがよくわからなくて自分って何者なんだろうか、みたいな。人って肩書きを大事にするじゃないですか。地方のイベントに行って「占い師の島田さんです!」って紹介されたことがあって、「俺って芸人じゃなくて占い師なんだ……」って結構気にしちゃったり。自分は何をやっているんだろうなって悩んでいる時期にダウンタウンの松本人志さん(以下松本さん)の某番組に呼ばれたんです。でも、面白い人達がいるなかに、僕みたいな中途半端な人間がいる時点でおこがましいし、罪悪感でいっぱいでした。本番前に緊張でトイレに行ったら偶然松本さんもいて、2人っきりで無言も気まずいから「今日はよろしくお願いします。いやー、僕お笑いがやりたくて出てきたのに、今手相とか見てるし、自分でも何やってるんだろうなってすごい悩んじゃってるんですよね」って思わず悩みを言ってしまったんですよ。そうしたら「そんなん知らんがな」って言って出て行ったんですよね。“そりゃあそうだ、本番前に先輩に何言ってんだろう”って後悔していたら急にひょこっとトイレに顔を出して「でもな、島田。需要があるってことが大事やからそれでええんちゃうか?」ってひと言かけてくれて。その言葉で自分がやりたいことが仕事になるのがいちばんいいけど、求めてもらっていることを一生懸命1つ1つやっていくことの大切さに気づいて、そこから肩書きとか全然気にならなくなりましたね。
-その松本さんのひと言が大きかったんですね。
大きかったですね。例えば、芸能事務所でマネージャーがやりたかったのに気づいたら総務の仕事をしているとか、運転手をしている人も多いわけですよ。やりたいことができないから辞めるっていうそんな狭い視野じゃなくてもうちょっと広い視野で見てみるんです。自分はなぜお笑いがやりたかったかというと、人に笑ってほしくて、元気になってほしかったからこの道を選んだ。でも、お笑いがダメで気づいたら手相というやり方に変わっていたけど、結果ゴールは同じだなって思ったんですよね。だからその会社に入ってなんでその仕事がやりたかったのかっていうのを1回思い返してもらいたいなと思います。
-若者達はそこで悩んで挫折してしまう人が多いので、多くの人に向けたアドバイスのように感じました。
悩んだ時は「なんで自分はこれがやりたかったのか」という気持ちを思い出してみるといいかな。僕は早くに父親を亡くしているんですけど、遺言に「働くとは何か」みたいな言葉が残っていたんです。「働くの“はた”というのは周りっていう意味があって、その周りを楽にさせるから働くってことなんだ。だから働くことによって周りを楽にさせるような働き方をしてほしい」って書いてあって。それは自分のなかでも大事にしている信念みたいなもので、だとすれば漫才だろうが怪談だろうが手相だろうが働き方はなんでもいいと思ったんです。
次のページ : 2020年は大変動があるスタートの年...
島田秀平/Shuhei Shimada
1977年12月5日生まれ。ホリプロコム所属の手相占い師芸人。1,000人以上の芸能人の手相を鑑定した。ユーモア溢れる「島田流手相術」が人気となり、テレビ・雑誌などで精力的に活動中。2019年8月1日よりYouTubeチャンネル『島田秀平のお怪談巡り』がスタート。登録者数5万人を突破する。(2019年12月現在) |
COLLAGE: NATSUMI IHARA @ihara_natsumi
INTERVIEW&EDIT: KAHO FUKUDA
DESIGN: AZUSA TSUBOTA
CODING: JUN OKUZAWA