CULTURE
2014.03.20
『フルートベール駅で』
名もなき青年が遺したもの…… |
監督 |
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この『フルートベール駅で』は実話をもとにした映画。2009年、大晦日を恋人や友人たちと過ごして新年を迎え、家に帰る途中、22歳の黒人青年のオスカーは鉄道警官に銃で撃たれて命つきる。なぜ、悲劇は起こったのか──。 物語の結末は彼の死。冒頭でそれはすでに描かれるのだけれど、結末が分かっているのにこの映画にどうしようもなく引き込まれてしまうのは、あってはならない事実を伝えながらも、それ以上に、オスカー(マイケル・B・ジョーダン)という22歳の青年の命がどれだけ重く尊いものだったのかを描いているから。もう、胸が締めつけられるなんて言葉じゃ足りないくらいに、オスカー自身と彼を愛した人たちの行き場のない切なさと悲しさが伝わってくる。たしかに、オスカーは前科があって、仕事もクビになって、クスリの売人だったこともあるけれど、けれど、それでも愛する女性ソフィーナと彼女とのあいだに生まれた娘タチアナとしあわせに暮らそうと頑張っていた。家族を大事にする、動物を大事にする、根はものすごくやさしい青年。であるのに……。 人をある側面だけで判断してはいけないし、人の命は簡単に奪われてはいけない、どんなことがあっても。オスカーという青年がどんな青年だったのか、ただそれを知ってほしい、そして記憶に留めてほしい、そう祈りを込めたくなる映画。事実は切なく悲しいけれど、彼の人間的なあたたかさに触れる映画。ぜひ。
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text rie shintani