CULTURE
2014.06.05
『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』
名もなきシンガーとトラ猫の一週間の旅 |
監督 |
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『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』は、なんとも心地よくて、なんとも切なくて、なんともセンスがよくて、何度も観たくなる映画。大きな事件が起きるわけでもない、ひとりのフォーク・シンガーがただ歌い続け、ひたむきに生きる姿を描いた小さなストーリー。けれど、そのなかには一生忘れられない静かな感動がある。 主人公はフォーク・ミュージックをこよなく愛し、音楽と共に生きるルーウィン・デイヴィス(オスカー・アイザック)。住むところもなく、羽織るコートもないけれど、ギター片手に歩く姿はなぜかさまになっている。それは、生活は苦しくても彼がフォーク・シンガーとしての誇りを持っているから。どこまでも自分らしさを貫こうとするルーウィンが奏でるギターも歌声も素晴らしい。 興味深いのは、ルーウィンのモデルとなっているのが実在したフォーク・シンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクであること。ロンクの後輩シンガーのなかにはボブ・ディランもいて、彼がこれまで一度もレコードに収録したことがなかった未発表曲「フェアウェル」がこの映画で使われていることからも、どれだけロンクが慕われていたのかが伺える。とは言ってもロンクはあくまで映画のモデルとなった人物であって……。この映画はルーウィン・デイヴィスの人生のほんの一部、トラ猫と旅するとある一週間の旅物語。
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text : rie shintani