CULTURE
2016.03.11
2007年05月号掲載 ED_LETTER vol.2
THE NEWEST YORK
ニューヨークには、地下数十メートルに至るまで、何層にも何層にもいろんな“気持ち”が重なり合って眠ってる。喜び、悲しみ、願い、憂い……、深く深く、アスファルトの中に浄化されないまま眠ってる。ここに来るたび、そんな思いで一瞬、頭が空洞になる。なぜだろう?
僕の近くを通り過ぎた茶色で耳が垂れてる中型の野良犬は、たしかに僕に、「こんにちは」と言った。チラっと僕の方を見ただけで、特に興味もなさそうにあくびをしながら。こんなに寒いのなら、日本を出る前に教えてくれたら良かったのに、と、その野良犬になのかマンハッタンの灰色の空に対してなのか、僕も小さなあくびをした。
マイナス15度って、バナナで釘が打てるんじゃなかったっけ? ベタだな、と想像力まで凍ってしまった頭を、2枚重ねにしたパーカのフードと、さっきH&Mに慌てて飛び込んで買った、たぶんパチもんの有名アウトドアブランドのフリース手袋のあったかさに、ちょっとだけ感謝した。そして、マンハッタンのビル風をもろに受けながら、どこを見つめるでもなく、コレクション会場に向かった。道すがら、手をブルゾンのポケットから出すのを何度かためらいながら、キンと冷たくなったモトローラ製の携帯の時計を見た。携帯の待受画面には、去年のニューヨークの記録的大雪の写真が写っている。「いっそのこと雪、降んないかな」。
毎年、ニューヨークの一番寒い時期に行われる秋冬ファッションショー。会場のフロントローには、有名セレブやエディター、スタイリスト達が映画のごとく顔を並べる。何百人もの人が発する何万デシベルものノイズが、虚構の中に僕を追い込む。と、次の瞬間、大音量の音楽とともに、雑誌のカヴァーを飾るモデル達がランウェイを歩き出す。ニューヨークに来て初めて、僕は我に返った。
To be continued(たぶん、ウソだけど……)
あとがき
ファッションショーの会場で、人気モデル達のスナップを敢行した。極寒野中、みんな快く撮影に協力してくれた。さすがに、マイナス15度の中でアウターを脱いでもらうのには気が引けたけど。それでもトレンドのミニワンピなど、かわいいスタイリングをたくさん見つけることができた。今月号で、一挙公開!
ナイロン ジャパン編集長 戸川貴詞
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flashback memory 2007_05 ・マイクロミニ丈のスカート、ワンピースが大ブーム ・「トゥギャザーしようぜ!」など、ルー大柴による英単語混じりの日本語が流行 ・当時15歳だった石川遼が男子ツアー世界最年少優勝、「ハニカミ王子」の愛称で一躍有名に | |
2007年3月28日発売 NYLON JAPAN #36 |