CULTURE
2016.05.06
2013年04月号掲載 ED_LETTER vol.10
ny dog
ニューヨークが大雪のため、JFK 空港が閉鎖になりフライトできず、予定 より1日遅れて、直行便が満席だったので17、8時間かけてシカゴ経由でニューヨークに入る。便が変更のためニューアーク空港に到着し、タクシーの運転手が「雪で遅れたのか? 大変だったな。まったく●ァックな雪だぜ」と話しかけてくる。別に雪は●ァックじゃないけど、と思いながら「そうだね、まったく●ァックな雪だ」と、気もなく答える。「トライベッカグランドホテルまで」。まだ、街中のあちこちに雪が残っているマンハッタンは、キンとした寒さに加え、その雪の感触がより一層体を硬直させる。
バナナで釘が打てる、ほどの寒さじゃないな、今回は。常宿のホテルに着いて、フロントでチェックイン。1 泊キャンセルが間に合わなかった分、部屋をアップグレードしてくれるという思わぬサービス。長時間のフライトとニューヨーク独特の寒さで、どんよりしてた気持ちが少しだけあったかくなる。ホテルマンから大量に届いているショーのインビテーションを受け取り、部屋に入って、熱いシャワーを浴びる。まだ、頭ん中はふわっとしてる。
とりあえず、届いてるインビテーションをチェックしながら、1 日遅れたために崩れてしまった予定を一通り組み立て直す。4 日分の予定をiPhone のカレンダーに書き込む。その予定を眺めながら、まだ遠くにある頭ん中をたぐり寄せようとするが、すぐに諦める。なんか、熱いコーヒーが飲みたいな。
ニューヨークは何度来ても、おんなじ空気が漂ってる。離れるとすぐ忘れてしまうけど、来るとすぐに思い出す、独特の空気。何かが浄化できないままでいる、というような地中深くから湧き出る空気、とでも言おうか。好きじゃないけど、嫌いなわけでもない。
先にニューヨーク入りしてるスタッフから、LINEメッセージが入る。最初のショーの場所は、メイン会場のリンカーンセンター。ホテルでゆっくり休む間もなく、すぐに着替える。Acne のブラックスリムデニム、紐を外したSATURDAYS SURF のパーカ、ボタンがなくなってポケットに穴のあいてしまった5、6 年前のRAF SIMONS のロングコート、インナーにはユニクロの上下ヒートテック、TOPSHOP のニット帽とちょっと破れたニット手袋にNIKE のスニーカー。まあ、いつもとたいして変わんない。
ホテルを出て、近くのFranklin St 駅からワンウェイチケットを自販機で買って、赤の1番の地下鉄に乗る。あいかわらず、揺れがひどくガタガタキーキーうるさい。日本の地下鉄はすばらしいな、と毎度の感想。20 分ほどで、66 St Lincoln Center 駅に到着。
駅に着いてもまだ、ふわっとしたままの頭で階段を上りながら、コーヒーが飲みたかったことを思い出し、お約束のスタバに向かう。「ダブルトールソイラテ、エキストラホット、プリーズ」。「名前は?」と店員。「タカーシ」。
ほどなく“Tikasha” と書かれたペーパーカップを手渡される。誰それ!?と思いながらも、なんかリアーナとかケシャみたいでカッコいいなと諦め半笑い。一度でもまともに正しく書かれたことがない。
ショーのスタート時間が迫っていたので、カップを持ったまま小走りで会場に向かう。外で待ってたスタッフの姿が目に入り、なんだかホッとしてラテをひとくち……げーーーっ! アメリカのソイは甘ったるくてクソまずいんだった! ふわっとした頭ん中は、一瞬で現実に引き戻された、というか頭と体が一緒になった。さて、ニューヨークファッションウィークの始まりだ。
ふと気配を感じ辺りを見回すと、あの犬がうろうろしていた。ガフッ、とちょっぴり咳き込みながら僕の横を通り過ぎ、少し先で振り返った。また、ニヤっと笑って「こんにちは」、と言った気がした。何年か前の、あの時とおんなじ顔で。
さっき、ちょっぴり白くなってた髭が、元に戻っていた。あれ、雪が髭に付いてたのかな?
ナイロン ジャパン編集長 戸川貴詞
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flashback memory 2013_04 ・カーディガンを方に巻く“プロデューサー巻き”が流行 ・NHKの朝ドラ『あまちゃん』が放送開始、ブームになる ・イチロー選手が日米通算4000安打を達成 | |
NYLON JAPAN vol.107 |