CULTURE
2013.05.19
BO NINGEN : ロンドン×日本が生んだサイケデリックロックの新星
常に新しい音楽カルチャーを生み出し、世界中の音楽ファンを惹き付けるロンドンのミュージックシーン。そこで注目されているジャパニーズバンドがいると聞けば、見逃すわけにはいかない!
ロンドン在住の日本人同士で結成され、同地を拠点に活動するサイケデリックロックバンドBO NINGEN。ノイズミュージックやクラウトロックを昇華した独特のサウンド、全て日本語で綴られる歌詞、そしてメンバー全員がロングヘアという風貌で、一度見たら忘れられない強烈な存在感を放つ4人組。Sleigh BellsやThe Liarsといった人気バンドのオープニングアクトを務めたり、欧州の数々のフェスにも出演、そして『NME』や『MOJO』などの主要音楽メディアからも高い評価を得て、エキセントリックなパフォーマンスでシーンを席巻している。 そして音楽界だけに留まらず、ファッション界からも熱いラヴコールを受けている彼ら。『DAZED AND CONFUSED』や『i-D』といったファッションマガジンにフィーチャーされたり、V&Aミュージアムで開催されたヨウジヤマモトの回顧展にもライヴ出演するなど、彼らの世界観に触発されるファッショニスタも急増中! そんな今最も注目すべきバンドがツアーで凱旋帰国したところをNYLON.JPがキャッチ。Taigen(Vo&Ba)、Yuki(Gt)、Kohhei(Gt)、Mon-chan(Dr)の4人が、ステージでの激しさとはうって変わった、にこやかな表情でインタビューに応じてくれた。(もちろん日本語で!) ロンドンに行こうと思ったきっかけは何ですか? Taigen: 日本の大学に興味が無くて、海外に行こうって思って。ひとまず英語圏で、でもアメリカは当時情勢が良くなかったし、イギリスの方が音楽的にも好みだったのもあって、音楽の勉強をしに行きました。 Yuki: 僕も同じ理由でロンドンへ。大学では写真や映画などメディアアートを学びました。 Kohhei: 実家が田舎で、都会に出たかったんです。当時は絵描きになりたかったので、ファインアートを勉強した後にイラストレーション学科を卒業しました。 Mon-Chan: 元々は東京で服飾の学校へ行っていて服作りをしていました。夢敗れて、傷心の旅にロンドンへ。その旅がずっと印象に残っていて、服をやるか、音楽をやるか、はたまた刀鍛冶になるか考えて(メンバー驚く)、2年後くらいにロンドンに移ってみんなと出会いました。 結成されるまでの経緯を教えてください。 Taigen: 学生の頃いくつかバンドを掛け持ちしていて、たまたまKohheiくんが当時やっていたバンドと対バンしたんです。実験的な音楽について話せる貴重な相手だったので仲良くなって、それから共通の友人を通じてYukiとMon-chanと知り合いました。 バンド名の由来は? Taigen: 知り合いが僕の(痩せた)体を見て、「前から見ると3次元で、横から見ると2次元で、そのまま直線になってなくなっちゃいそう」と棒人間に例えたのが印象に残っていて。他のメンバーも体型が似ていたのでそのままバンド名になりました。“BO NINGEN”ってアルファベット表記でもインパクトがありますし、“ningen”という単語自体にいろんな言語で意味があるそうです。ドイツ語だったり地名だったりして、ヨーロッパの人達にも響きやすい名前なんじゃないかと思ったんです。 1番初めのライヴは覚えてますか? 当時の音楽スタイルはどのような感じでした? Taigen: 会場は現地のイギリス人が集まる普通のパブで、客同士で対バンするスタイルでした。 Yuki: 僕達の前に演奏してたのは、結婚式で歌っているような偽物フォークみたいなバンドでしたし。 Kohhei: 観客の反応……無かったです。(メンバー苦笑) Taigen: 当時僕以外の3人はちゃんとしたバンド活動をしたことがなくて、かという僕も他のバンドで出来ないことをしたかったので、曲の構成もフリーフォームで、「ライヴでなんとかなるだろう」って感じのノリでした。音楽性に捕われないというのは今も同じですが、もっとめちゃくちゃでしたね。 Kohhei: 初ライヴ当日に初めてこの4人でスタジオに入りました。 Yuki: 「じゃあ、よろしくお願いします」みたいな感じで。 最近はエフェクターやシンセサイザーを多用した“サイケデリックロック”というジャンルのバンドが注目されるようになりました。同じジャンルのバンドとして彼らと比べられることはありますか? Taigen: (BO NINGENの音楽は)サイケデリックというくくりではありますが、比べられることは特にないですね。サイケデリックといっても、ドラッグによる視覚体験みたいなものとも違うし、そういったものを取り入れたアーティストとも音楽的コンセプトは全く違います。BO NINGENの音楽は、“ジャンルがない”のでサイケデリックというカテゴリに振り分けてもらえるといいですね。自分達で独自の定義を作ることが出来ますから。 Yuki: そもそも、サイケデリックと言われているバンドを僕達はそうだと思っていませんし。 Taigen: 日本では、「ただのサイケデリックとは違いますね」とか「サイケデリックだと思ったけどもっと聴きやすいですね」なんて良い意味で驚いた反応を頂いています。 Mon-chan: (僕達の)見た目のせいでどうしても・・・ Yuki: どちらかというと“フューチャー(未来)”。 watch & listen: 『Henkan』 ドラッグによるネガティヴなイメージもあって、“サイケデリック”って誤解されがちな単語だと思います。みなさんのサイケデリックの定義はありますか? Taigen: 良い意味でリミットがなくて、自由なフォームであること。BO NINGENにとってはフィルターであり、アウトプットでもある。“ろ過されたもの”という感じでしょうか。 Yuki: “両極端”。例えば、めっちゃうるさい、ものすごい静か、とか。壊れるとか、壊れないとか。いわゆる音楽ではなくて、ひとつの形態に留まらない何か。 Kohhei: 僕はその“両極端”のちょうど真ん中にある、ドアみたいなものだと思います。少しだけ開いて向こうを覗いたり、こっち側とあっち側を行ったり来たり、すっと移動するような。 Mon-chan: 日常の中の“非日常”。 僕にとってはライヴが“非日常”です。ライヴで何かを突き抜ける、自分の中で何かを超えることでしょうか。 Taigen: 僕たちにとってのサイケデリックは、ドラッグ体験やアートではありません。でも人それぞれ考え方は違いますし、分かりやすいように定義付けてしまうのはつまらない。 それぞれ視点がとてもユニークですね。おそらくそういった姿勢もメディアの興味を惹いていると思います。ファッション系メディアにフィーチャーされることについてはどう感じていますか? Taigen: 僕自身はファッションに本当に疎いですし、バンドとしてもファッションを意識したり服装を統一していないので、自然のままの僕達のことを、ファッションのアンテナが敏感な方々が反応してくれてファッショナブルだと言ってくれるのはすごく嬉しいです。作られたものではなく、そうあるべきだと思いますし。 それでは、みなさんの普段のファッションについて教えてください。こだわりや、定番のコーディネイトはありますか? Taigen: 僕、本当に疎いんですよ……イギリスでは良いんですけど、この風貌で日本で気を抜いた格好をしているとマズいと思って(笑)キレイ目を心がけています。かといって荷物も増やせないので、帰国の間は母親の服を借りて着ています。その中でも、ゆったりしたシルエットのものとか、男子が着てもおかしくないような中性的なものを選んでいますね。ステージ衣装も母のお下がりのワンピースです。母も僕も服の趣味が似ているので、今でも「これどう?」と意見を聞いたりもします。 Yuki: 僕は普段からパジャマです。現地のチャリティショップによく行きますが、基本的に数百円のものしか買わないです。あえて言うならそれがこだわりですね。あと最近は赤いものが何でも好きで、ステージでも赤い服を着ています。今日のコート(写真)も赤で、下はパジャマ。 Kohhei: 大体もらいものです(笑)。普段でもステージでも、いつも同じ服を着てます。定番はシャツです。 Mon-chan: 昔は見た目的に人に避けられるようなものを着たがる時期があって、ホームレスやスナフキンみたいな格好をしていたんですけど、日本に帰ってくると本当にヤバいことに気付いて、シュッとしなきゃと思ったんです。最近は服の趣味がブレなくなって、色が無いもの、丈が長いもの、着やすいものに落ち着きました。 ちなみに、最初から全員ロングヘアだったのですか? Taigen: 最初から長髪だったのはMon-chanだけでした。「みんなで揃えよう!」と申し合わせた訳ではなく、それぞれ好き勝手やって気付いたら伸びていたって感じです。 ミュージシャンとして異国の地に拠点を置くという決断はとても勇気がいることだったと思います。みなさんをそこまで惹き付けた、ロンドンの魅力は何でしょう? Taigen: 日本に比べて音楽活動がしやすいところです。例えば日本ではライヴでチケットを売らなきゃいけないノルマ制というのがあって、売れてないバンドにとってかなりキツい。それに比べてロンドンは演奏する場所もたくさんあって、お客さんも気軽に入れます。さらに、ファッション関係の方々や著名なミュージシャンがフラッと来たりするので、そこで声をかけられて、コラボレーションのお話を頂くようになりました。人と会える場所がとても多いことが音楽活動をするうえで魅力的だと思います。 NYLON読者へロンドンのおすすめの場所を教えてください。良い音楽に出会いたいときはどこがおすすめですか? Taigen: まずはバービカンセンター。アートギャラリーやミュージアム、それにコンサートホールが入った複合施設です。基本的にはクラシックですが、現代音楽など若者向けの音楽も扱っていて、少しエッジィで先端をいくようなバンドのライヴが観れます。映画館ではマイナー作品も観れるし、チケットも安いし、何より音響がすごく良いです。 Yuki: ロンドン中心部に近くてすごく一線を画したエリアにあるんです。冷たいモダンの建物で、空中庭園みたいです。その辺を散歩しているだけで面白いものに出会えます。 Taigen: それと、ダルストンにあるCafé Otoというライヴハウス。4、5年前にオープンして以来、それまでマイナーだった尖った感じの音楽がほぼそこで観れるようになりました。ファッションやアートに興味のある人も集まるので雰囲気も良いです。昼間はまったりとしたカフェなんですけど、かかっている曲が挑発的でそのバランスが最高です。 Yuki: 僕はほぼ毎日行ってます! ダルストンはおしゃれなエリアとして名前を聞くようになりましたね。ロンドンで次に盛り上がりそうなエリアはありますか? Taigen: ダルストンは盛り上がりすぎてしまって、郊外や地方の人達が集まるようになってしまったんです。昔から住んでいたアーティストは今や避け始めています。 Yuki: クラプトン、もうちょっと東に行ったエリア。 Taigen: そのエリアは昔から危険だと知られている所です・・・。あと、移民が多い南がこれから盛り上がるって言われてます。実際に周辺の建物が新しくなってきたりしてますし。南の音楽は、アンダーグラウンドでちょとダークですね。 Mon-chan: チョイ悪ロッカーです。 それでは最後に、みなさんが憧れているヒーローは誰ですか? Yuki: 『ゴッドファーザー』(フランシス・F・コッポラ監督/1972年)でマーロン・ブランドが演じる初代ドン・コルレオーネ。マフィアのボスで、銃弾を5発打ち込まれても死なないんです。僕なんて1弾も打ち込まれていないのに疲れてグッタリすると、ドン・コルレオーネみたいな人になりたいって思います。でも、マフィアには興味ないですよ。 Taigen: ひとりには絞れませんが、プロレスラーの方々。中学生の頃からずっとプロレスが好きで、今でも影響を受け続けています。彼らも日常の中の非日常というか、とんでもないことしますし、体削ってますし。八百長なんて言われますけど、痛みは本物ですし、そのパッションや爆発力、表情に感動します。血まみれになって物販に立ってるところを観たら、僕もライブのあとすぐにお客さんの元へ行かなきゃ!って思います。そんな力をくれる存在がプロレスラーです。 Kohhei: 『シュルレアリスム宣言』を出したアンドレ・ブルトン。僕は美術専攻だったので、20世紀美術史のダダからシュルレアリスムへ移る流れが好きなんです。シュルレアリスムを創ってシーンを引っ張っていったのがブルトン。その当時、スーツを着たおじさん達が変なことを考えてるっていう図に憧れます。 Mon-chan: CAN(70年代に活躍したドイツの実験的ロックバンド)のドラマーのヤキ・リーベツァイト。彼のリズムに対する概念や、オリジナルのリズムを貫く姿勢は自分のドラミングにも影響を受けました。フランスのフェスで実際に会ったことがあって、見た目は普通のおじさんでしたが、やっぱり尊敬出来る人だと実感しました。 ファッション性は特に意識していないと語るも、表現者としてのストイックさと美意識の高さが感じられたBO NINGEN。アルバムのジャケットやツアーTシャツなどのアートワークは全てKohheiが担当し、バンドの体の一部として発信されているのも魅力的。 そして、今回の来日ツアー後は各地で「BO NINGENのライブ、ヤバい!」との声が続出し、今年の国内外の大規模フェスへの出演にも期待の声が高まり中。日本人バンドとして次々と快挙を成し遂げ、世界中をサイケデリックに染める本格ブレイクはもう目前。早速楽曲を聴いて、“非日常的”な世界に遭遇してみて! watch & listen: 『Nichijou』 |
『Line The Wall』 Bo Ningen Sony Music Associated Recordsより発売中 コッソリ聞いてみた! BO NINGENの憧れの“ミューズ”達 「アイドルグループ、でんぱ組.incの夢眠ねむさんです。 アイドルとしても元気をもらっていますし、実際に対談/競演させて頂いた時に演者としてものすごく共感することがあったので。」(Taigen) 「一緒のレーベルにいる、バックバンドをやっている子です。」(Kohhei) 「3年前くらいに夢で見た人。ふわーっとした白昼夢のような中に現れた、白い服を着た女の人でした。未だに全然忘れられないです。」(Mon-chan) 「ひみつです!」(Yuki) Bo Ningen boningen.info |
photographer hiroyuki seo interview keiko komada