CULTURE
2019.11.28
佐藤千亜妃作詞・作曲の『転がるビー玉』主題歌&劇中歌が最高すぎる!
『NYLON JAPAN』の創刊15周年を記念して製作された映画『転がるビー玉』。その主題歌、そして劇中の歌を提供していただいた佐藤千亜妃さんに、先日発表された初のソロアルバム『PLANET』についての話と共に、映画のプロデューサーも務めるNYLON JAPAN編集長の戸川貴詞がインタビュー。彼女の繊細なメロディと歌声が、『転がるビー玉』を宇宙まで転がしてくれることを願って。
━━ 『転がるビー玉』の脚本、映像を観て、最初の印象はどうでしたか?
NYLON JAPANが企画するということで、ヒューマンドラマというよりもヴィジュアル推しというか、オシャレでキャッチーでポップで、女の子たちがかわいくて、きゃっきゃしている感じなのかなと。そう思って観たら、かなり人間のドラマが描かれていて。当初の予定では、オシャレなファッション寄りの映画になるんだったら、劇伴とはいえ打ち込みの要素があったり、クラブで流れていても遜色がないようなビートミュージックがいいのかなと想定していたんです。でも、蓋を開けてみたらナチュラルなヒューマンドラマだったので、これは絶対にビート系じゃないと思って、そこからピアノのメロディを繊細に聴かせようかなとか、場面によってはギターによって疾走感や爽やかさを添えないといけないなとか。想定外の質感の映画でしたし、想定外にちゃんと映画でした。もちろんファッションにもこだわっているんですが、いい邦画だったので、ヘタなことできないなって。
━━ 最初に宇賀那監督と話した時に、NYLONであることをある意味忘れてほしいと伝えたんです。NYLONだからこういうファッションやカルチャーがある、みたいなものが先にくると、ものすごくNYLONの枠にはまった絵が先に見えてしまう。観客からすると映画で観たいことってそういうことではないだろうし、そういう人たちばかりが読者ではないので。その読者のリアルさみたいなものを忘れてしまうと、すごく表層的になってしまいそうで。そこで、何かキーワードを作ろうとなって、僕らはずっと渋谷にいたので“渋谷”にしようと。むしろ、それくらいしか決めなかったんです。そこにいるリアルな女の子はどういうことなんだろうと。実際には、NYLONも内容に多少絡むことにはなるんですけど。そういうところから考えてくださいと言って、とにかく“オシャレ映画”と括られないようにしましょうと。オシャレ映画をバカにしているわけではないんですけどね。
なるほど、すごく人にフォーカスした映画だなと思いました。見た目じゃなくて、ハートに迫るというか、真を喰ってる映画だったので。それが意外だったんですよね。ファッション雑誌の企画でここまでグイッと人の内面を描こうとするんだなって。
━━ NYLONの当初からの裏テーマみたいなものなんですが、僕らはファションやカルチャーを取り扱っていても、大切なのはそこにある“マインド”だということ。結果的に似たようなファッションだけが集まるわけではないので、とずっと言っていて。実際に雑誌を作ると、今のNYLONのようになっているんですけど、ただその根本にあるのはそういう見た目ではないから。そういうのって言葉で伝えるのは難しい。表面的に好きという理由で、このコミュニティに居てもらえるのはそれはそれで良いんですけど、ここ居ることによって最終的にそういうマインドに触れてもらえると、雑誌をやっている意味があるなといつも思っていて。なので、映画を作るにしても、表層的になってしまうとなんか違うなと最初から思っていたんです。その後、実際に企画が進んで、曲どうしようってなった時に、最初に宇賀那監督から佐藤千亜妃さんの名前が出てきたので、あ、そうだなと思って「めちゃくちゃ良いと思います。じゃあ、聞いてみます」と。本当にそういうシンプルな流れでオファーさせていただきました。
すごく嬉しかったです。NYLONはよく読んでいたので、お世辞じゃなく本気で(笑)。表紙が好きな号は買ってたりして。私自身はメインの層ではないと思うんですけど、いつも参考にさせてもらっていて。なので、速攻でやりましょう! と(笑)。
━━ 印象的なシーンとかありましたか?
いっぱいあるんですけど、特に瑞穂(萩原みのり)のどのシーンも好きなんですが、最後に髪の毛を乾かして「もう来ない」って言うシーン。「嫌だって言ったらどうする?」みたいなところで、なんでしょう……。それまで2人とも真顔っぽかったけど乾かし終わって、啓介(笠松将)が最後に髪の毛を整えた時に瑞穂がこわばった顔が、嬉しそうにふふって笑って、その後にもう来ないってくだりになる。あの、ふふって笑った瞬間が可愛いすぎて! あと、泣けるって思って。本当は「行かないで」って言われたら「行かないよ、一緒にいるよ」って言いたいはずなのに、離れないといけない。でも撫でられてちょっと嬉しいみたいな顔が泣けるというか。あれが本当の瑞穂の気持ちなんだろうな。でも、心を鬼にして去ったんだろうなって。もう、とにかくいっぱいあるんですけどね。あと、タバコの吸い方が上手すぎる(笑)。瑞穂推しすぎて(笑)。あと、居酒屋で「お前がおかしくさせたんじゃん!」って泣きじゃくるシーンも、全部かわいいしエモいし泣けるなぁって、演技上手いなって。瑞穂ファン増えちゃう気がする。
━━ 萩原みのりさんが主演の『お嬢ちゃん』もすごくいい。
演技っぽくなくて、本当に思っているんだろうなって表情をするというか。ブレイクしちゃうと思います! でも、三者三様でみんな可愛くて。良かったなぁ。あそこも良かったですよ、テテ(大野いと)に愛(吉川愛)がビシバシ言われるところ。「憧れでモデルやってるっしょ」っていうところも、めちゃ好き。最高だなって。何回も観たので好きなシーン結構ありますよ。
━━ 初号までアレンジされた楽曲を聴かなかったので、エンディングめちゃくちゃ良かったです。あんなにストリングスが入ってドラマティックになってるなんて。ずっと弾き語りの曲で映像を観ていたので、それが頭にこびりついたので、最後、『転がるビー玉』が流れ出した瞬間、うるうるしちゃいました。宇賀那監督からは、最初どういうオーダーだったんですか?
結構お任せです、みたいな感じだったので。むしろお任せのほうが難しいんだなって。監督のイメージと私のイメージが違ったらどうしようって、ダメ出し覚悟で提出したら、全部良かったです! という返答がきたので、これでいいんだ、良かったって(笑)。でも、本当に面白かったですね、劇中の歌をディレクションさせてもらったり。恵梨香役の今泉佑唯ちゃんの大ファンの女の子の友達に、最近ギターを教えたんだって言ったら、「えっ、ずーみんじゃん! 会ったの?!」って言われました(笑)。みんな可愛かったですね。
━━ では、『転がるビー玉』に関する深いお話は、NYLON JAPAN 3月号(1月28日発売)にてお話できたらと思います。ここからは、きのこ帝国活動休止後、11月に発表された初のソロアルバム『PLANET』のお話を中心にお伺いします。
きのこ帝国が休止する前の活動のなかで、1st EP『SickSickSickSick』などを制作していた頃、バンドでは出来ない打ち込みなどをあえてやって、サイドプロジェクトとしてバンドと並行してやっていく予定でした。でも、ベースが脱退してバンドが休止してしまい、ソロ活動が本格化していったんです。バンドとソロを両立する予定だったけど、ソロ活動する意味合いが重くなって、ちゃんと一人になっても表現しきれないといけないというプレッシャーを感じるようになってきて。ソロはもう少しライトな気持ちで、やりたいことをやるつもりだったんですが、きのこが止まった今では、きのこ帝国が内包していた感情の動きなども、ソロでもフォーカスしてやらなければいけなくなってきたなと。ソロなので音楽1年生みたいな気持ちで、ゼロから自分というアーティスト像を作っていかないといけないと思いました。
そういう気持ちは、作りながら気づいていった部分もあって。休止発表前から何曲か制作が始まっていたなかで、その時は純粋に音や歌と向き合う作業でしたが、休止が発表されたり、その反響があったり、実際にライブもしないし、止まったという事実を日に日に現実味を感じていました。ソロへの向き合い方は、自分的にはあまり変わらないと感じていたのですが、やっぱりどこかでくらう部分があったり、自分の足元を固め直さなければいけないとなって。それは作りながら生じたものだったので、その気持ちが100%今回の作品に反映されているかといったらそうではない。無垢に作っていた部分と、そこから徐々にプレッシャーや責任感など、いろいろなものを背負わなければいけないなと意識が芽生えた以降とで向き合い方が変わったので、この作品制作を通していろいろな感情が生まれました。
この作品はバラエティに富んでいてジャンルを特定できないと思うのですが、こういうある種ちぐはぐなものを経て、いろいろな刺激を受けて、この作品を作った作業が、ソロをやるときに何が必要で、何を必要としてないか探る上では、必要不可欠な工程だったのかなと。そういう意味では、自分のなかでは重要なピースになるアルバムだと思っています。
━━ ソロアルバムを作ってみて感じた、自分がやりたい音楽性とは何ですか?
30曲近くあるデモから12曲を収録しましたが、作り終わった段階では、より自分が何者なのかわからなくなった時があって。あれもこれもやりたいとやった結果、ソロって逆に何でもできちゃうので、どんどん広がっていってしまって収拾がつかなくなりそうだなと。少し時間が経って今思えるのは、バンドをやってる時は生音ではないものへの憧れもあって打ち込みとかもやってみたんですが、結果自分は歌を歌いたくて音楽をやっていて、歌のグルーヴを聴かせたいと思った時に、特にライヴだと打ち込みと一緒ではリミッターが振り切れない感覚があって、100点は出せるけど200点は出せない。バンドで生音のみだった時は、60点の日もあれば200点の日もあるみたいな、そういうダイナミズムがあったので。
今もサポートメンバーとバンドでライヴをするのですが、同期と一緒にやると、どこか自分のなかで表現し切れない。生音でやっていた感覚が染み付いているんだなと。そう俯瞰した時に、やっぱり自分は歌自体のグルーヴで、バンドのアンサンブルをグルーヴさせていくのが好きなのかなと思ったんです。ある一定の電子音の上で歌を載せるのではなく、歌が真ん中。骨があって肉体が動くみたいなことをやりたいんだなという気づきが今回あって。アルバム制作後にライヴをやったりして最近思ったことなんですけど。次からは、こういうことがやりたいという理解ができました。
バンドの初期の頃は無意識にできていたかもしれないけど、逆にお勉強しすぎると、いろいろな情報が入ってきて、試してみるけどそれがベストとは限らないということにやっと気付きました。歌を歌うのであれば、歌を中心に音楽を作ったほうがいいなって最近思います。自分の歌のグルーヴがある人は、そのグルーヴに合わせたほうがいい。
━━ 歌詞に関してはいかがですか?
歌詞は昔からこだわりがあります。昔は、ボヤかしたなかにワンポイント強い言葉を入れて、コントラストを付けて試行錯誤していた。でもそれだと、自分が伝えたかったことが違うふうに伝わることがあったんです。それが良いときもあれば意図していない場合もあって、リスナーとのズレを感じたりして。歌詞を汲み取ってくれる人ばかりじゃないし、察してねというよりは、見せたい情景があるなら、そう思わせるような言葉を置かないといけないと思う。
━━ 歌詞の内容は日常? 非日常?
昔は、自分の日常の出来事を膨らませて書いていたことが多かったんです。今もそれはやるんですが、描きたい情景があった場合に実際に自分が体験したことがなくても、想像して書いた方が歌詞をとして面白いことがあったり、そっちのほうが現実にあるように思えたりする。「あんたはいつもさ、靴下を脱ぎっぱなしで」って、自分は経験したことがないけど実際にはありそうだとか。
空想の中にスポイト一滴分でも感情移入できるものが入っていれば歌えるなと思っていて。だから書いた後に、あたかもそういうことがあったんじゃないかという感情が生まれることがある。本当に悲しくなってきたり、ハッピーな気分になったり。だから今は、妄想の情景を設定をして書くことが楽しくなってきていますね。実際の日記のようにこういう日があってじゃなく、こういう夜もありそうだよなっていう妄想の中で書いてる。リアルと妄想の半々で歌詞は書いています。
━━ アルバムを通して伝えたいことは何ですか?
基本的には歌えればいい人間なんで、大層なメッセージはないんですが、このアルバムで唯一全曲を通して言えるのは、出会ったり別れたり、死んでしまうことも含めて人がずっと定点で同じ位置にいることはない、ということ。最後の曲の歌詞に現れていると思います。俯瞰で見た時に、惑星の動きと人間の動きが自分のなかでオーバーラップしたんですよね。いろいろなものがなんらかの周期をもって動いている。ある日クラブで男女がやり取りしているのを見て思ったんですよね。
「PLANET」という曲のアレンジが上がってきた時、自分としてはもっと“捕らえどころない星”をイメージして依頼していたのが、実際のアレンジを聴くと、まだ見たことのない星ではなくて、“地球の日曜日の午後”だったんですよね。最初は何か違うんだよなと思ったんですが、3回ぐらい聴いていくうちに、いやこれは最高のアンサーだろう! って思いました。私がやみくもに星と星が出会ってプラネットで、でも私たちが一番知っているプラネットって地球じゃない? ってアンサーをアレンジで返してくれたような気がして。それでアルバムタイトルにもしたいって思ったんです。なので、地球についてのアルバムです。地球にいる人たちの曲たちです。
━━ クラブでそんなことを考えていたんですね。
ジャケットのアートワークも目が星になってます(笑)。
━━ ありがとうございました。
佐藤千亜妃
Chiaki Sato
4人組バンド「きのこ帝国」(2019年5月27日に活動休止を発表)の Vo./Gt./作詞作曲を担当。その類まれな表現力を纏った唯一無二の歌声は、音楽ファンのみならず数々のミュージシャン、タレント、 俳優等からも支持されている。2017年12月には「佐藤千亜妃と金子ノブアキと小林武史」名義による『太陽に背いて』が、「東京メトロ」キャンペーンの第三弾CM「日比谷 -歴史と文化が色づく-」篇のCMソングとしてオンエアされ話題に。その後ソロ活動も本格化し、2018年7月には砂原良徳との共同プロデュースによる1st EP『SickSickSickSick』をリリース。2019年8月には映画『CAST:(キャスト)』(WEB短編映画)主題歌『大キライ』をデジタル配信リリース。『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』や『BAY CAMP 2019』にも出演し、ライヴ活動も精力的に行なっている。 また、メガネブランド「Zoff(ゾフ)」の2019年夏のビジュアルモデルに選ばれるなど、多方面でも注目を集めている。今年11月13日にファーストソロアルバム『PLANET』をリリース、12月にはワンマンライヴ「空から落ちる星のように」が盛岡と東京の2カ所で決定。
2020年4月より「佐藤千亜妃 LIVE TOUR 2020 PLANET+」の開催も決定している。
HP chiakisato.com
Instagram @chiaki_sato0920
Twitter @chiaki_sato0920
CD+DVD:¥3,800(+tax)
CD:¥2,800(+tax)
【映画『転がるビー玉』公開情報】
2020年1月31日(金)より、渋谷パルコ8F・ホワイト シネクイントにて先行公開
2020年2月7日(金)より、全国ロードショー
【主題歌】
『転がるビー玉』
作詞/作曲 佐藤千亜妃
編曲 永澤和真(aspr)