CULTURE
2019.04.19
K-POPの向かう先は? BLACKPINKの生みの親 SINXITYとオカモトレイジ(OKAMOTO’S)二人の目利きが初対談
K-POPの向かう先は?
BLACKPINKの生みの親 SINXITYと
オカモトレイジ(OKAMOTO’S)
二人の目利きが初対談
YGエンターテイメントでBLACKPINKをはじめ、BIGBANGや2NE1、WINNER、iKON、ONEなどのプロジェクトマネジメントを務めたヒットメーカー、SINXITY(シン・シティ)。OKAMOTO’Sのドラマーにして、ファッションやカルチャー全般のトレンドの中心として注目を集めるオカモトレイジ。
K-POPのビッグファンとしても知られる彼が、 第1弾アーティストであるKATIEがデビューシングル“Remeber”のMV再生回数が1千万回を超えるなど次世代のK-POPの発信元として刮目されている新プロジェクト「AXIS」の起動のために来日したSINXITYと初の対面を果たした。 いち早く時代を見抜く二人はK-POPの今後をどう見ているのかーー。
REIJI: はじめまして、OKAMOTO’Sというロックバンドで活動しながら、DJも頻繁にやりつつ個人では謎の動きを繰り返しているオカモトレイジです。
SINXITY: 去年設立したAXISという会社のファウンダーでクリエイティブ・チーフ・オフィサーをやっているシン・シティです。よろしくお願いします。
――レイジさんはK-POPのファンだと公言されていますが、最初に惹かれたきっかけというのは?
REIJI: 2~3年くらい前、個人的にニュージャックスウィング(1980年代中盤にアメリカで発生した音楽スタイル)と2 Step(1990年代中盤にイギリスで発生した音楽スタイル)にハマっていた時期がありました。ちょうどその頃にSHINeeの『1 of 1』というアルバムが出て、なんの気なしに聴いてみたら超レベルの高いニュージャックスウィングと2Stepの曲が収録されていて。それまではアイドルと一括りにして音楽的な興味を持つことがなかったけど、あまりの音楽レベルの高さに驚いてそこから一気に掘りました。当時はBLACKPINKがデビューしたくらいの時期だったのですが、彼女たちの“WHISTLE”はジュエルズ・サンタナあたりの感じを上手にサンプリングしてて、アイドルがやりつつもパクリではなくルーツと捉えさせるクオリティだとものすごい衝撃を受けましたね。めちゃくちゃかわいい子が超カッコいい曲をやってるって最高でしかない! 俺の中ではパンクやロックと並列してK-POPが好きと言えるほど、ただのマイブームではなく殿堂入りした大好きな音楽なんです。
SINXITY: さすがトラックのルーツまで鋭く分析されていますね。BLACKPINKでいうと、全体プロデューサーはYGエンタテインメントのヤン・ヒョンソク会長ですが、音楽作りやコンテンツのプロデュースはTEDDYさんが手がけています。TEDDYさんは音楽的な知識を幅広く持っていて、そこから今のトレンドを作るのが非常に上手な方です。さらに、トラックやメロディ作りやヴォーカルディレクションにおいてそれぞれのジャンルが得意な人たちが集まって一つのものを作るスタイルが一般的なのですが、彼は全てを一人でこなしてしまうんですよ。10年以上前からBIGBANG、2NE1、そしてBLACKPINKなど彼が手がけたシングルは全て韓国のヒットチャートで1位を獲っています。常に新しいカルチャーを取り入れた彼のアイデアは天才的です。
REIJI: そうですよね。ジェニの“SOLO”も、サビのドロップで二小節以上歌が入らないじゃないですか。あそこはK-POPをもう一段階上に行かせる完全な決め手になったと思うんです。普通K-POPのアイドル曲はサビでいえば二小節以内に歌が入るのに、“SOLO”によって一個越えたなと。TEDDYさんは本当に唯一無二の存在だと思います。
SINXITY: ヤン会長も歌詞や音楽のコンセプトなどに関してもアドバイスをしています。彼は最先端の要素を使いつつ大衆が好きになれるようなポイントを把握しているんです。ご自身でミキシングやマスタリングまで行っていて、オフィスにも自宅にも作業環境があり、YGの楽曲は全て彼の手によって最終調整が施されているんですよ。
REIJI: えっ、本当ですか!? それは知らなかった……。
――そのYGにおいて、SINXITYさんは具体的にどんなことに携わっていたのですか?
SINXITY: 僕は、YG練習生のスカウトと開発から、それぞれの楽曲に合うビデオや衣装、メイクなどヴィジュアル・クリエイティヴ、そしてプロモーションやマーケティングに繋がるブランディング作りに関わる仕事をしていました。2013年からは所属アーティストも多くなってきたので、外部のプロデューサーネットワークを作るプロジェクトにも参加していました。
――いち早く才能を見抜き、ブランディングを行なってきたSINXITYさん同様、レイジさんもバンドとは別に他のアーティストのディレクションやフックアップをされていますよね。
REIJI: それがさっき言った、謎の動きというやつで(笑)。最近、韓国のアンダーグラウンドですごくカッコいいことをやっていて仲良くなった無名の友達もみんな知名度が上がってきているんですよね。ラッパーのUneducated kidは、Jay Parkと一緒に曲作っていたり、あとはラッパーのJvcki WaiのライヴのバックDJをやったりもしました。
SINXITY: Jvcki Waiは本当に最近勢いがあります。見る目がありますね。
REIJI: 自分でもびっくりしました。さすがに、見る目があるというのは国内だけだと思っていたので。
SINXITY: 今は日韓もほぼトレンドが一緒になってきていますし、世界規模で見てもそうですね。また、日本のHIP HOPアンダーシーンを見ても同じトレンドだと感じます。
――例えばK-POPのトレンドは今どのようになっているんでしょうか?
SINXITY: K-POPでは2年前までは中心となるトレンドがあったのですが、去年から今年にかけてはコンセプトの多様化が進み、メイントレンドがなくなってきています。ガールグループでは強い女性像もありながら、可愛い系統の人気も根強いですし、そういったバラエティに富んだシーンが今のK-POPの傾向だと思いますね。YG、SM、JYP三強の時代が23年ほど続いたのですが、この三社はこれまでのK-POPのトレンドをそれぞれの形で作ってきたんですね。YGはHIP HOPなどのストリート系でぶっ飛んでいるイメージ、SMはアート志向を持ちつつもちゃんとアイドル的でもあるイメージ、JYPはJYPさん自身がアメリカのソウルがお好きなのでモータウン的なテイストを入れ込みつつ様々なイメージを形成してきました。それまで韓国ではアート・ディレクティングやクリエイティヴ・ディレクティングにおける土壌がなかったのですが、近年アンダーグラウンドシーンで色々なアーティストがそれぞれのコンセプトを強調し始めてきたのが影響して急激に発展し、それがブランディングに繋がり、現在では様々なコンセプトが生まれてきているといった状況です。
REIJI: 俺がいちリスナーとして感じるのは、少し前はアメリカに追いつこうとしていた韓国の音楽シーンは今すでに追いついてしまったということ。そうなったからこそようやく、韓国人が韓国人としてのアイデンティティを持った音楽を作ることができるようになったんだと思ったんですよね。トラディショナルでオリエンタルな音感になってきている。
SINXITY: 海外のやり方は参考にしつつ、自分たちらしい個性や韓国のオリジナリティを出す流れになってきていると思います。BTS(防弾少年団)もトラックやPVに伝統的な要素を取り入れたりしていますよね。また、BLACKPINKも“DDU-DU DDU-DU”のMVに韓国の建築様式のセットを登場させています。
――なるほど。ではお二人はアンダーグラウンドやユースの動きはどう見ていますか。
REIJI: 俺らよりもっと若い世代のクリエイターを見ていると、求めているものがもはやお金とかじゃないんだなと感じます。今はSoundCloudでリリースしたり、タダでできることがいっぱいあるじゃないですか。しかも、お金がかかってないはずなのにすごいものを作っている子たちが沢山いる。
SINXITY: そこは僕らにとって怖いところでもありますね。フォトグラファーやMVの監督はアシスタント時代を経て苦労を積み重ねて一人前になるといった既存のシステムが韓国では最近崩れてきています。下積みを通らずにSNSで自分の作品を発信できる子たちが多いのですが、彼らの表現は新しいので、お金になるモノばかりを追い求めているメインストリームがそのフレッシュさに負けてしまっているんです。だからAXISでは表に立つプレイヤーには、メインのマーケットにアタックする動きをしてもらう一方で、裏方にはできるだけ新人を起用してトラックなどは新しいものを作ってもらっています。お客さんが求めるものとのすり合わせと、新しいものを取り入れることを同時にやっているんです。
REIJI: そこに比べると日本はまだメインのシステムが強い気がします。ヒットチャートを見ても、面白い音楽はあまり入ってこないですし。
SINXITY: 韓国から日本を見ている立場として、近く変わる時が来ると思いますよ。そして、それを変えるのはインターネットメディアです。伝統のチャートを気にせず動く新しい何かがあれば日本も変わると思います。韓国のエンタテインメント産業が変わるきっかけとなったのは、『SHOW ME THE MONEY』というHIP HOPのサバイバル番組の人気によってアンダーグラウンドシーンに注目が集まったことですが、僕は日本でもそういう企画をやりたいです。日本の業界の人は“HIP HOPはお金にするのが難しい”とあまり手出ししようとしていないですが、そこをなんとかやることで変化に繋がるはずなんです。若い子たちにも響くものをちゃんとマーケットとしてプッシュする必要がありますし、日本でHIP HOPやっている子たちをフックアップできるようにしたいですね。
REIJI: でも、一個引っかかっているのが、日本の音楽は良いものはあるけれどやはりレベルは低いと思うんです。美学が違うというのはPRODUCE 48(日韓合同アイドルオーディション番組。ここからIZ*ONEが誕生した)を見ていてもわかるのですが、日本の“ゆるさがカッコいい”という美学が、グローバル企画の場合は裏目に出てしまうかもしれない。努力量のギャップが見えてしまうというか。
SINXITY: 僕たちは観点が似ていますね。僕はK-POPが流行った理由の一つが努力量だと思います。日本でオーディションをしようとした時、日本のレコード会社の方々に“デビュー予定を明確に見せないと人が集まらない”と言われたんです。韓国では5~6年間の練習期間を通ることが当たり前なので、そこがまず違う。また日本の練習生は1日に2時間くらいのトレーニングが一般的ですが、韓国の練習生は睡眠時間3時間、それ以外は全て練習時間にあてています。韓国ではこのスタンスが当たり前となった結果、日本とは違った意味で競争が激化しました。そのために練習生の下積み時代には会社が全て投資して育てています。
REIJI: そのうえで、韓国のオーディション番組ではめちゃめちゃ努力しまくってきた子たちがパフォーマンス審査で“なんかダサい”と言われる場面もよく見ました。努力量だけじゃなく、本気で“完璧な人間以外はいらない”というスタンス。これはかなわないと思いました。
――パフォーマンスのレベルだけではなくヴィジュアルの作り方もK-POPがグローバルで成功した要因のひとつと言われていますが、実際にAXISのKATIEのMVも素晴らしい出来でした。
SINXITY: 日本ではそういったものは全てパッケージングされる前提で作られているぶん、予算が限られてきてしまうんです。韓国では世界中の方にミュージックビデオをYouTubeで見てもらえるために作るので、お金をかけます。1本2000万~3000万円は普通で大事なMVは6000万円~1億弱かけて制作します。なので、単純に予算の違いだと思いますね。また、トレンドを入れる力も強いですし、アシスタントシステムが崩れてきているからこそ、例えばモーショングラフィックの畑にいた人が監督したり面白い発想や動きが出てきます。個人的にはアートワークや映像などに関しても日本のクリエイターやスタッフのレベルは非常に高いと思うので、YG時代は日本の方にお願いすることも多かったです。
REIJI: BLACKPINKの“DDU-DU DDU-DU”のMVでミラーボールみたいな素材で出来た戦車が出てきたときはブチ上がりました。超ギャルいジェニが乗ってて……やりすぎてて最高!って(笑)
――Youtubeで見せるという意識もそうですが、韓国はドメスティックなマーケットだけではやっていけないからこそ最初から国内の1位ではなく世界規模の評価を目標としていて、そこがクオリティの高さの追及に繋がっています。
SINXITY: そうです。携帯電話などテクノロジーといった様々な産業においても同じことが言えますが、日本は国内マーケットだけでマネタイズすることも十分にできてしまうので、アーティスト次第ではありますが国内のセールスも大切にしているように感じます。ただ日本のカルチャーは長い歴史と深さと専門的な面白さがあるからもっと世界にちゃんと見せてほしいですね。日本のバブル時代のトレンディドラマも“こんなのアリ?”というものがいっぱい出てくるじゃないですか。韓国ではもっと“こんなのやっても良いの?”という感覚が求められています。もちろんアジア圏なので周りの人の目は気になりますが、刺激がないと誰も見てくれない。日本でもやりたいことをやることは大事と思っている人はいっぱいいると思いますし、そういう声はテレビや新聞では聞こえないけれどネットからはたくさん聞こえる。もっとそれを信じて声を上げていけば変えていけると思います。その求心点となるのは日本の場合はカルチャーだと思いますし、今の時代はネットコンテンツを使うべきです。
――SINXITYさんはそうしたエッジなカルチャーをメインストリームに浸透させてきたと思うのですが、ヒットの法則のようなものはあるんですか?
SINXITY: 音楽のトレンドは国ごとにありますが、POPに関しては世界共通に売れるテイストがあるので、そこを目指しつつトラックの新鮮さを求めて、ヴィジュアル面ではそこまで難しくないけどカッコいいもの、というのがひとつのヒットの法則ですね。また音楽とステージが上手い人というのは沢山いますが、その上でアイデンティティとコンセプトはもっと重要なことだと思います。爆発的に支持されているビリー・アイリッシュだって、ハイクオリティな楽曲と歌詞とPVがあり、さらに一貫して彼女自身の哲学を落とし込んでいるんですから。
REIJI: 日本のエンタメ産業の上層部は若い感覚を理解しようとする人が少なすぎるし、何に対しても関心を持たない人が多すぎる。俺がK-POPに出会って感謝しているのは、発売日が待ち遠しくて仕方ない気持ちを高校生ぶりに思い出させてくれたことなんですよ。そういうときめきを感じることって大事なんですよね。人からトレンドを聞かされても人の心をつかむポイントは本質的には理解できないから、作る側もそのジャンルの大ファンでいなければいけない。自分の肌で感じないと分からないですよね。会社の上層部もそう。お客さんのときめきが察知できなければ良いものは作れないと思います。
SINXITY: まさに。色々な戦略はありますけれど、そういう気持ちにさせるものは舞台の上でしか見せることができないし、それには努力が必要です。
REIJI: 現場で良いものを見てたら、5年先のヒットもわかるようになると思うんですよね。あ、でも今だとスピードが違うから昔なら5年先を見据えていたのが、1年後くらいにきちゃうこともあるかも。
SINXITY: 先を見るのはとても大事です。6~7年後は、ナノ工学やVR、AIの発展によって全世界のエンターテイメントが今と変わると思います。5Gになったら万人が高画質の映像が見られる機会が増えてきますしね。だから僕はそういったSF的なイメージを持つコンセプトのグループを作りたいです。AIによる曲作りなどが始まってしまうとクリエイターやアーティストの存在価値が揺らいできてしまうのが怖いところですが、だからこそ“じゃあ人間だけがやれるものって?”というところに集中していきたいです。レイジさんは?
REIJI: HIP HOPが席巻しまくっているのでそろそろバンドが来てもいいんじゃないかと思います。HIP HOPとロックではエネルギーの種類が違うので、トラップやりつつギター弾きつつラップするアイドルグループとかいたらカッコいいな。
SINXITY: うーん、ダンスはお客さんにとって重要な要素なのでこの流れは続くと思います。でもレイジさんと僕は観点が似ているので、一緒にアーティストのプロデュースをしたいですね。
REIJI: ぜひ!(笑)
PROFILE.
OKAMOTO REIJI/オカモトレイジ
オカモトショウ(Vo)、オカモトコウキ(G)、ハマ・オカモト(B)、オカモトレイジ(Dr)によるロックバンドOKAMOTO’Sのドラムを担当。2010年5月に1stアルバム 『10’S』でメジャーデビュー。2019年1月9日には8thアルバム『BOY』をリリースし、2019年4月から6月にかけてOKAMOTO'S 10周年イヤーを飾る全国ツアー「OKAMOTO'S 10th ANNIVERSARY LIVE TOUR 2019 “BOY”」を開催。
HP: okamotos.net
Instagram : @okamotoreiji
INFO.
8thアルバム『BOY』が発売中。4月6日(土)横浜BAYHALLを皮切りに
ツアー詳細はHPにて。
PROFILE.
SINXITY/シン・シティ
韓国のアーティストプロデューサーでクリエイティヴプラットフォーム 「AXIS / エクシス」の創業者であるシン・シティ(SINXITY)。全社のYGエンタテインメントではクリエイティヴ最高責任者・ブランド戦略最高責任者としてBIGBANG,2NE1,WINNER,iKON,BLACKPINK,ONEをプロデューシングし、述べ300以上の楽曲、ミュージックビデオ、オンラインプロモーションを手掛ける。
「AXIS」のマルチクリエイターボーイズクルー"ambitious ambition:通称aaクルー”のデビュー楽曲『black』『golden (feat.LOGAN)』『feeling (feat.Jaxon Kurt)』『Know You Better (feat.NiiHWA)』の4タイトルを4月17日に同時リリース。
Instagram : @axisccp @axis_sinxity
Twitter : @axis_twt_
HP: axisccp.com
INFO.
4月17日にデビューシングル4作を同時リリース。
LOGAN 『black』『Know You Better (feat.NiiHWA)』
elan『golden (feat.LOGAN)』『feeling (feat.Jaxon Kurt)』
配信リンク: axisccp.com/release
STAFF
MODEL: REIJI OKAMOTO(OKAMOTO’S), SINXITY
PHOTOGRAPHY : TOSHIO OHNO
HAIR&MAKEUP: MASAHIRO KASHIWA (BLOC)
EDIT: YURIKA NAGAI
INTERVIEW: RYOKO KUWAHARA
DESIGN: AZUSA TSUBOTA
CODING: NATSUKI DOZAKI