孤高に生き続けるアーティスト、米津玄師。
音楽界に名を馳せる今までのヒーロー達とひと味もふた味も違うその理由が今、やっと明らかになる。
新曲『Flamingo / TEENAGE RIOT』をはじめ、NYLONだけに語ってくれたファッション観など、米津玄師の知られざるエピソードがここに。
米津玄師が新作シングル『Flamingo / TEENAGE RIOT』をリリースする。ドラマ『アンナチュラル』主題歌として書き下ろされた『Lemon』が上半期を席巻する大ヒット曲となり、一躍時代の寵児となった彼。これまで数々のコラボを手掛けてきたが、新曲は久々に自分自身に向き合って作られたものだという。和の世界観を強く感じさせる『Flamingo』や思春期の衝動に満ちた『TEENAGE RIOT』の制作の裏側、そして彼のプライベートやファッションについて、じっくりと話を聞いた。
『Lemon』は今年を代表する曲のひとつになったと思うのですが、その手応えはどういうものでしたか?
自分はずっと普遍的なものを作りたいと思って活動してきたんですけれど、正直、それが『Lemon』になるとは思ってなかったんです。そこにたどり着くためにやってきたんだけど、自分の人生は映画と違って先のことなんてわからないわけで。自分は昔ボーカロイドをやってて、そこから出て、邦楽ロックというところを経由して、いわゆるJ-POPという場所にたどりつくまでの長い旅をしてきたわけですけど、『Lemon』という曲がその旅のひとつの終着点のような気がしたんですよね。だから、急にエンドロールが流れ始めたような感じがあって。「あ、俺が今までやってきたことは、ここで終わりなんだ」と思ったんです。それはある種のハッピーエンドなんですけど。じゃあ、次にどうすればいいかっていうことを考えて2018年は生きてきたんですね。そういうなかでいろんなことがあって。
どんなことがあったんでしょう?
ひとつのトピックスとしては、子供の頃から好きだった人達と、立て続けに会うことができたんですね。BUMP OF CHICKENの方達とか、ジブリの宮崎駿さんと鈴木敏夫さんとか。宮崎駿さんは本当に5分くらいしか喋ってないんですけれど、自分が今27歳だという話をした時に、彼が「27か。27年前なんて、ついこないだだね」って言ったんです。たぶんなんの気なしに言ったことだと思うんですけど、それを聞いて思うことがあって。今までいろいろ苦労してやってきたような気でいたかもしれないけど、まだまだ先はものすごく長いし、まだまだ生きるに値する人生が待ってるんだろうなっていう感じにさせてくれたんです。『Lemon』が出た後でいろいろ考えてる時にその言葉が入ってきたから、なおさらそう思ったんだと思うし。それは自分のなかで大きな経験でしたね。
新作の『Flamingo /TEENAGE RIOT』には、昨年のアルバム『BOOTLEG』や『Lemon』までの一連の流れからの反動のようなものも感じます。どういう経緯から制作は始まったんでしょうか?
反動というのはそのとおりだなと思います。ここ最近は、いろんなタイアップとか、誰かとコラボしたり、ゲストボーカルを招いたり、誰かに楽曲を提供したり、そういうことをずっとやってきていて。
「〈NHK〉2020応援ソング」としてFoorinという小学生5人組ユニットが歌う「パプリカ」を書き下ろしてプロデュースしたこともありましたね。
そうですね。だから今までやってきたことって、対面に自分じゃない誰かがいたんですよ。そことの共通点を探っていく、その真ん中はどこにあるのかみたいなことを探していくのが、ここ最近の自分の曲の作り方だったんですけど。でも『Flamingo』に関してはそうじゃなかったので。
『Flamingo』は、今までにないタイプの曲ですよね。明らかに変な曲というか。変な曲ですね。これはどういうふうにしてできたんでしょうか?
一念発起して「よし作ってやろう」という感覚があったわけではなくて。なんとなくなんですよね。最初はフォルクローレというか、スペインの民族音楽みたいなものが作りたかったんです。ああいうエキゾティックな感じがすごいいいなと思って、そういう曲を作れないもんかと思ってやっていくうちに、気がついたら日本の民謡にたどり着いていた。最終的には島唄とか都々逸(どどいつ)とか、そういうものになってきた感じです。
コンセプトありきで作っていったわけではなく、作っているうちにだんだんそういうものにスライドしていった。
『Flamingo』に関しては、対面に人がいなかったのが大きいかもしれないですね、今までは『打上花火』のDAOKOちゃんとか、『灰色と青』の菅田(将暉)くんとか、もっと言えばタイアップ先の作品だとか、そういうものがあるなかで曲を作ってきたんですけれど、今回はそうではない。そうなった時に、自分のなかにあるぐずぐずしたものとか、みっともなさとか、そういうものをまだ誰も聴いたことがないような形で出せたら面白いなっていうのはなんとなく考えてはいました。
『Flamingo』には、いろんなボイスサンプルが入っていますよね。唇を震わせたり、喉を鳴らしてみたり、咳払いとか「あ、はい」みたいな会話の断片のような声も入っている。これは曲が完成した後に足していったんですか?
いや、それありきでしたね。最初は最小限のシンプルな形だったんですけれど、そういう声を入れた瞬間から「これだな」と思って。それを軸に自分の声の肉体性みたいなものを今まで以上にそこに落とし込むやり方をしました。
そういう自分の声が、曲のスパイスではなくむしろ主役になっている。
いろんな声が入ってるんですけど、そのひとつひとつに自分のなかではコンセプトがあって。この曲はお酒を飲んでる時のことを思い出しながら作ったんですけどそこで培ってきた声ネタなんですよね。例えば「あ、はい」みたいな生意気な声は、相手から叱られたり説教されてるけれど自分自身はひとつも悪くないと思ってる時の「あ、はい」なんですよね。あとは、「えっ?」って聞き返してるような声も入っている。これは向こうが言ってることがどう考えてもおかしいというか、軸がぶれてる発言をしてる時に、わざと聞こえなかったふりをする時の「えっ?」なんです。よくやるんですよ。そういう声ネタのひとつひとつに、ある種のみっともなさが入っている。
みっともなさと言いましたけど、それは怒りや苛立ちでもあったりするんじゃないですか?
苛立ちでもあるし、自分のチャランポランな感じというのもありますね。怒りもあるにはあるんですけど、でも、怒りも紐解いていけば、例えば相手を挑発してやろうとか、そういう自分のなかのしょうもない感覚から来ているものであって。そういうみっともなさっていうのを1曲にぎゅっとまとめたかったんですよね。
曲調や歌詞には和の世界観が前面に出てきていると思いますが、そこに関してはどうでしょう?
そこはやっぱり、自分が日本人であるという意識の問題だと思います。ずっと自分は、日本人としてJ-POPを作ろうとしてきて。日本人が共感できるようなものってなんなんだろうと思って。歌謡曲とかニューミュージックとか、いろいろ日本の音楽の歴史を探していくうちに、いちばん根源的なものって、やっぱり民謡だとか、そういうところにたどり着くんですよね。日本を取り巻く環境の変化とか、海の向こうの音楽シーンに対する意識が大きくなればなるほど、結局どう考えても自分は日本人でしかないというところに行き着くわけで。そういう自分のアイデンティティをどう見つめていくかっていうのは、ずっとやってきたことだったんですよ。
『TEENAGE RIOT』はどうやって作った曲だったんでしょうか?
これはそもそも『Lemon』のカップリング用に作った曲だったんです。でも、「これは表題曲のほうが似つかわしいから次回に出そう」と言われた。で、「それはそうかもしれない」と思ったんですね。この曲はそもそも、中学生の終わりの頃に作った曲がサビのメロディーのもとになっているんですよ。
これはタイトルのとおり、思春期性のようなものがテーマになった曲ですね。
今、中二病っていう言葉がすごく便利なワードになってるじゃないですか。自分もよくそう言われるし、なんならその筆頭みたいなところもある。そういうことに対して思うところもあって。初期衝動的な自分の感情を吐露することに対する恥ずかしさってあるじゃないですか。でも、今のSNSの時代って、そういうものにすぐツッコミが入っちゃうと思うんです。例えばツイッターに自分の感情を吐露するようなことを書くと、やれポエムだ中二病だメンヘラだと言われてしまう。でもそれは当人にとっては、すごくシリアスな感情であって、吐き出さざるを得ないような言葉なんですよね。だからこそこういう、衝動的な、どこか稚拙であったとしても吐き出さざるを得ないような感覚を大事にしたものを作りたいという感覚はありました。
「何度だって歌ってしまうよ どこにも行けないんだと」というフレーズも印象的です。
ここ最近、「米津玄師」というものが、キャラクター化し始めてきたと思うんです。ひとりの人間というより、パブリックドメインみたいな観念的なものになってきている側面があって。「米津玄師ってあれでしょ? どこにも行けない人でしょ?」みたいな。
その指摘はツイッターでかなりリツイートされていましたね。
そうそう。それはそれで俺はうれしいんですけどね。そうなろうと思って生きてきたところもあるし、それはそれである種当然のことだなと思うんですけど、そこに対してモヤモヤしたものも感じるわけであって。そういう自分の最近の扱われ方とか、中学生だった頃の記憶とか、そういうものをごちゃまぜにして、ごった煮状態になった曲なのかなと思います。
『Flamingo』がみっともなさの凝縮だとするならば、『TEENAGE RIOT』は青臭さの凝縮である、と。
そうですね。みんな自分のみっともない部分を出すのが怖いんだろうなって。それは俺も怖いです。怖いんですけど、そういうぐずぐずした、「馬鹿じゃねえ? こいつ」みたいなものが出てこないと人の心って動かないし。ポップソングとして、もっと言えば音楽として成立しないと思うんですよ。みんなそういうものを隠そうとしすぎなんじゃないかと思う。そういう風潮に対して自分は否と言わなければならないという感覚はものすごく強くあります。
カップリングの『ごめんね』も、やはり表題曲にしていいくらいのいい曲ですね。
この曲は自分も好きですね。これはゲームをきっかけにできたんです。『UNDERTALE』という、めちゃくちゃいいゲームなんですよ。ネタバレ厳禁みたいなところがあるんで詳しく話さない方がいいんですけれど、勝手にイメージソングを作るみたいなつもりで作りました。
このシングルをリリースした先のヴィジョンについてはどんなことを考えていますか?
今までずっと、普通にならなければならないっていうコンプレックスみたいなものがあったんですね。それは自分がポップソングを作るにあたって、すごく重要なものだったんです。でもそれが『Lemon』によってある種浄化したところがある。じゃあ次に何をやればいいのかってなった時に、なんのロールモデルもないんですよ。人生の第2部をどうすればいいのかわからない。いわば、宮崎駿さんが絵コンテを描きながら作業を進めていて、制作スタッフの誰も映画がどこにたどり着くかわからないみたいなところに近いモードになってると思っていて。一寸先は闇なんですけど、だからこそできることがあるとも思っていますね。あえて今の自分に何か言えることがあるんだとすれば、何か未曾有なことがやりたい。今まで誰も見てこなかったようなところにたどり着きたいということは思います。そういう野望だけがぼんやり渦巻いてる状態です。
ちなみに、オフの日の過ごし方は?
オフの日っていう感覚が全くないですね。音楽って、言ってしまえば趣味兼仕事みたいなところがあるので。あんまり分けてないというか、毎日オフだし、毎日仕事だしっていう感覚ですね。予定のない日に何やってるかって言われたら、酒飲んで、映画観て、YouTube観てるくらい。本当にシンプルな生活を送ってると思います。
気分が上がるのはどんな時ですか?
友達とお酒を飲んでる時ですね(笑)。やっぱお酒を飲んでしょうもないことを友達と話してる時がいちばん気分が上がります。
米津さんにとって、ファッションというものはどういう役割を持っていますか?
自分の意思表示というところはありますね。ファッションって、地域とかコミュニティに根ざしたものじゃないですか。その街の特色みたいなものをダイレクトに表現している。だから、こういう格好したら、ああいうのが好きなんだなっていうのが一目でよくわかる。それは音楽も一緒だと思うところがあって。自分が音楽を作るにあたって、例えばアレンジにおいて「こういうものをやったら、次はああいうものやってみよう」みたいに思うんですけれど。それって、どこか服を着替えるのと似ている部分があると思いながらやってて。服と音楽ってものすごく近いところにあると思うんですよ。レコーディングしてる時も、例えばヒップホップみたいな曲を作るのであれば、タイトなスキニーとか細めのシルエットのものを着ていると似つかわしくない、気分が乗らないようなところもあるし。ファッションと音楽って、すごく切っても切れないものだとは思います。
米津さん自身が選ぶファッションの傾向や、好きな服のタイプはどうでしょう?
個人的なことを言えば、自分のシルエットが隠れる服が好きです。それは、自分が手足が長いせいというのがあって。自分の自意識としては、奇妙な姿をしてると思っているんです。それが子供の頃からすごい嫌だった。身長がデカいので、細身のものとかジャストサイズのものを着るのがすごい嫌だったんですよ。それを着ると丈が足りない感じになるんです。だから7分丈とか本当に嫌で。デカい奴にはわかってもらえる“あるある”だと思うんですけど、貧相な感じになるんですよね。自分の成長スピードに合ってないものを着ているような、貧困に見える感じになる。それが嫌だったというのもあって、自分のシルエットが隠れる、オーバーサイズのものをよく着るようになりました。そういうもので自分を隠すというか。そういう感じではありましたね。ただ、ここ最近はそういうのもなくなってきて、なんでもいいじゃんって感じにはなってるんですけど。
わかりました。では、最後に。今いちばん欲しいものは?
今いちばん欲しいもの………。何もないかな。時間かなあ。なんだろう……やる気ですね(笑)。
米津玄師(本名)。27歳。2009年よりハチという名義でニコニコ動画へオリジナル曲を投稿し始め、ミリオン再生を達成。2012年に米津玄師の名前で活動し始め、2018年に『Lemon』が大ヒット。全ての曲の作詞・作曲、アレンジ、プログラミング、歌唱、演奏、イラスト、アニメーション動画など、MVまでも自ら手掛ける。
INFO
両A面シングル『Flamingo / TEENAGE RIOT』が10月31日発売。今回のアートワークも全て自身によるイラストで構成。
MODEL: KENSHI YONEZU
PHOTOGRAPHY: JIRO KONAMI
STYLING: TATSUYA SHIMADA
HAIR&MAKEUP: JUN MATSUMOTO
INTERVIEW: TOMONORI SHIBA
EDIT: SHOKO YAMAMOTO
DESIGN: SHOKO FUJIMOTO