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ナイロニスタが今聴くべきヒットチャートソング

Mega Hit Patrol vol.3
Selena Gomezが新曲で歌っている「嘘が下手な人」って誰のこと?

Selena Gomezの新曲“Bad Liar”に世間が色めき立っている。

その理由は幾つもある。でも何よりまずは、その音楽的な素晴らしさにおいて。ティーンのカリスマとして絶大な支持を得てきたSelenaだが、これまでの音楽活動に対する評価は決して高くはなかった。少なくとも、Taylor SwiftやLordeといった「テイラー・スクワット」の仲間と較べると、一歩も二歩も引けを取っていたのは否めない。

けれど“Bad Liar”はあらゆるメディアが諸手を挙げて絶賛している。イギリスの偉大なポストパンク・バンド、Talking Headsが77年に残した名曲“Psycho Killer”のベースラインのサンプリングを軸とした、無駄な装飾が一切ないミニマルなサウンド。囁くように静かな歌い方ながらも、繊細な感情表現を感じさせるSelenaのヴォーカル。一時はアメリカでもEDMを取り入れたアッパーで派手なポップ・ソングが流行ったが、“Bad Liar”のダークでムーディなサウンドは明らかにその次のフェーズへと行っている。米ビルボードも「これが彼女にとってアーティストとしてのターニング・ポイントになる」と評しているほどだ。

そして、この曲はゴシップ的な見方でも注目を集めた。タイトルの“Bad Liar”とは、「悪い嘘つき」もしくは「嘘が下手な人」といったニュアンス。最初はこれがSelenaの元カレ、Justin Bieberのことを指しているのでは? とファンの間で騒がれた。「ある日、街を歩いていた/取り乱さないようにして/でもあなたを見つけて/ああ、待って、人違いだった」という歌詞は、確かに昔の恋人への断ち切れない想いを歌っているようにも受け取れる。

でもその解釈は間違いだと「公式」には否定されている。“Bad Liar”の共作者Justin Tranterによると、「新しく好きになった誰かへのマジカルなフィーリングを隠そうとしているけど、隠しきれない」様子を歌っているんだという。そう言われて改めて歌詞を読むと、この曲はさっきとは真逆の意味になる。誰かを好きになって抑えきれない気持ちが歌われていて、それを隠し切れない自分が「嘘が下手な人」というわけだ。

となれば、今度は「今のボーイフレンドのThe Weekndのことを歌った曲?」とファンが騒ぐのも無理はないが、Selena自身がそれも否定。「この曲はストーリー(*具体的な体験談というより物語)を語っているの」とラジオ番組で答えた。

実際のところ、この曲は敢えて正反対の2つの意味で解釈できるように書かれているのだろう。優れたポップ・ソングの条件のひとつは、様々な解釈に開かれていること。聴く人の数だけ違った答えがあっていい。

そんな彼女の意図はMVにも表れている。このヴィデオでSelenaは一人四役を演じているが、①主人公の学生、②母親、③父親であり自分が通う学校の先生、④女性教師――それぞれのキャラクターが誰に想いを寄せているかを考えると、“Bad Liar”が一層多面的な曲に聴こえてくるはずだ。

この曲は、今のところ全米最高20位。最近はチャート上位をEd SheeranやBruno Marsなどの超ロング・ヒットが占めていて、トップ10に食い込むのがなかなか難しい。そんな状況下で、2017年上半期屈指の名曲“Bad Liar”はどこまでチャートを駆け上がることができるだろうか?

TEXT: YOSHIHARU KOBAYASHI / THE SIGN MAGAZINE
ILLUSTRATE: honatama_